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夜、ワグナリアの駐車場になのは陣営とフェイト陣営が集結する。どちらもジュエルシードの反応に導かれて来たのだ。 「発動してるね」 フェイトが明かりの消えたワグナリアを見上げる。 「ふはは、ふははははははっ、うっ! げほっ! ごほっ!」 高笑いが夜空に響き渡る。むせたらしく、笑いが途中で咳に変わる。 ワグナリアの屋根に人影が仁王立ちしていた。 白いマントに同色の学校の制服をきて、長い黒髪をなびかせている。 「魔法山田、山田推参!」 ジュエルシードを胸に張りつけた山田がふんぞり返る。 「あれ、葵ちゃんだよね?」 「ああ、間違いない」 ぽぷらの問いに、佐藤が答える。おそらく買い物に出かけた時にでも拾ったのだろう。比較的小鳥遊の状態に近いようだが、しっかりジュエルシードに取り込まれている。所詮は山田だ。 「余計な手間を増やしやがって。ま、山田なら大したことないだろう。なのは、とっとと封印してくれ」 「了解」 レイジングハートから、桜色の光線が発射される。 山田は動かず、勝ち誇った笑みを浮かべている。命中の瞬間、光線が拡散し、山田の横を素通りする。 「えっ?」 光線はさらに空中で乱反射し無数の光に分裂して、なのはたちに返ってくる。 「ぽぷらちゃん、私の後ろに隠れて!」 『Protection』 なのはがバリアを展開し、ぽぷらと佐藤をかばう。 「ふはは! 割りまくりクイーン山田を甘く見ましたね」 目を凝らすと、山田の周囲に小さな皿の破片が大量に舞っていた。 「山田は割れた皿の加護を受けています。どんな光線も反射しますよ」 「小鳥遊。あいつはどうして自分の能力を、べらべらと自慢げにばらしてるんだい?」 「気にしないで下さい、アルフさん。ああいう奴なんです」 「今度はこちらの番です。小鳥遊さん、佐藤さん、日頃の恨み思い知って下さい」 山田が仰々しく両手を構える。半端に意識が残っているのが、ますます腹立たしい。 「奥義、納豆バインド!」 「うわっ!」 魔法陣から納豆が飛び出し、糸が全員をがんじがらめにからめ捕る。納豆をこよなく愛する山田だからこそ使える魔法だ。 納豆は無尽蔵に湧いてくる。ワグナリアの駐車場が納豆の海と化し、小鳥遊たちが飲み込まれていく。眼下の光景を見下ろし、山田が己の力に酔いしれる。 「この力があれば、世界は山田の物。山田オブザワールド!」 喜びながら、屋根の上でクルクル回る。 踊る山田の後頭部を、誰かががっしりとつかんだ。恐る恐る振り向くと、小鳥遊が憤怒の形相で立っていた。 山田の顔から血の気が引いて行く。 もちろん納豆の糸に人間を拘束するような力はない。全員ネバネバになりながら、納豆の海から這い出し、山田を取り囲んでいた。 割れた皿の加護は人間には無害のようで、触っても皮膚が切れるということはなかった。 「この距離なら、反射は出来ないよね」 「山田さん。ごめんね」 「葵ちゃん。さすがに私も怒ったよ」 フェイトが、なのはが、ぽぷらが、零距離で三つの武器を突きつける。 「どれ、あたしも一発殴らせてもらおうかね」 「結界を張りました。これで店に被害は出ません」 アルフが指をパキパキと鳴らし、ユーノが静かに告げる。 小鳥遊同様、全員怒り心頭だった。 「た、」 おそらく山田は助けを求めようとしたのだろう。しかし、全力のスパークスマッシャーが、ディバインバスターが、ぽぷらビームが山田に炸裂し、夜空を明るく染めた。 じゃんけんの結果、山田のジュエルシードは、なのはが回収した。 フェイトが小鳥遊家に滞在するようになってから三日目の朝。 ワグナリア開店前に、スタッフが事務室に集合する。山田は昨日の戦闘の疲れが出たのか、屋根裏で寝込んでいる。ジュエルシードに取り込まれている間の記憶は、きれいさっぱり抜け落ちていた。 「えー、次は」 業務連絡を杏子が淡々と読み上げる。しかし、全員そわそわとしてどこか落ち着きがない。業務連絡の半分は耳を素通りしていた。 杏子は構わず連絡を続ける。 「最後に、今日からここで働くことになる新人を紹介する」 杏子の隣で、制服に身を包んだ金髪の女の子が微笑んで一礼する。 「フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします」 「…………ねえ、恭ちゃん。いいのかな?」 「いつものことだ」 厨房の制服を着た恭也が諦念を滲ませた。フロアスタッフが余ってきたので、恭也は今日からキッチン担当だ。料理ができないわけではないし、刃物の扱いは慣れているので、どうにかなるだろう。 銃刀法違反に労働基準法違反など、ワグナリアの法律無視は今に始まったことではない。細かいことをいちいち気にしていたらやっていけない。 ぽぷらとなのはは目を丸くしている。昨日やけに小鳥遊がここではお互いの事情を詮索しないよう念を押していたが、こういうことだったのか。 「テスタロッサは小鳥遊の知り合いだそうだ。小鳥遊しっかり面倒見てやれ」 「はい」 小鳥遊の生活は、週七日のバイトに家事に勉強、さらにジュエルシード集めと忙しい。多忙な小鳥遊を見かねて、フェイトが手伝いを申し出てくれたのだ。 伊波がぽぷらに話しかけた。 「嬉しそうだね、種島さん」 「えっ? そうかな? でも、(ちっちゃい)仲間が増えるのって嬉しくない?」 「そっか、そうだよね。(胸の小さい)仲間が増えるのは嬉しいよね」 伊波の胸も、ぽぷらの身長も、なのはとフェイトとほとんど変わらない。小学生と比べるしかない我が身に一抹のむなしさを覚えるが、もはや相手が何歳だろうと構っていられなかった。 それに将来的にも自分たちの仲間になってくれる可能性はある。 「すぐに手酷い裏切り者になるけどな」 十年後の二人の姿を予知している佐藤が小声で呟く。二人とも背も伸びるし、胸も成長する。スタイルは杏子に匹敵するかもしれない。 「よ、よろしくね。フェイトちゃん」 「う、うん。よろしく」 なのはとフェイトがぎこちなく挨拶を交わす。 まだ戸惑いの方が大きいが、フェイトと一緒に働けることを、なのはは喜んでいた。これをきっかけに和解できるのなら、最良の結末だろう。 (変人年増の巣窟だったワグナリアが、一気に楽園に。神様、ありがとう!) そして、ちっちゃいものたちが戯れる光景に、小鳥遊は歓喜の涙を流していた。 なのはとフェイトが空いた席の片付けをしていると、キッチンの方がやけに騒がしくなる。戻ると、ぽぷらの髪形がヤシの木になっていた。どうやら佐藤がやったらしく、ぽぷらが文句を言っていた。 その時、すぐ近くでジュエルシードの反応を感知した。 フェイトが結界を展開する。ユーノのものに比べると範囲が狭いが、戦うには充分な広さだ。 『Set up』 なのは、フェイト、ぽぷら、小鳥遊、佐藤が変身する。 「行くよ、佐藤さん!」 「おう」 ぽぷらと佐藤が息ぴったりで戦闘態勢を取る。 「あれ? さっきまで喧嘩してたんじゃ?」 仲裁に入るべきか否か、なのはは迷っていたのだ。 「それよりジュエルシードが先だよ。ね、佐藤さん」 ぽぷらも佐藤もすでに喧嘩していたことを忘れているようだ。今後、この二人の喧嘩に仲裁の必要はないと、なのはは判断した。 店の外へ飛び出した五人を、強い日差しが出迎える。 結界の中、人通りの絶えた道に、たたずむ影があった。 オレンジっぽい茶髪にスレンダーな体型。ジュエルシードを発動させたのは伊波だった。外にゴミ拾いに出かけて拾ったらしい。 肩の大きく開いた服に、たれた犬の耳と尻尾。かつて梢に無理やり着せられたコスプレ衣装そっくりの姿に変身している。ヘアピンには燦然と輝くジュエルシード。 小鳥遊が恐怖に凍りつく。 「佐藤さん、あれはやばいです!」 小鳥遊が警告した時には、佐藤はすでにワグナリアの奥へと退避していた。 「一人だけずる――」 言葉の途中で、小鳥遊の姿がかき消える。次の瞬間には、道の向こうの建物の外壁に叩きつけられていた。 さっきまで小鳥遊がいた場所には、拳を突き出しコンクリートの地面を踏み抜いた伊波が立っていた。 「速い!」 スピードと動体視力には自信があったフェイトが驚愕する。油断があったとはいえ、全く反応できなかった。 伊波は技術はともかく腕力だけなら、人類でもトップクラスに位置する。それがジュエルシードで強化され、手のつけられない狂犬と化していた。 (なのは、フェイト、ぽぷら) 「佐藤さん?」 店の中から、佐藤が念話で助言を送る。 (奴の名は撲殺少女まひる。ジュエルシードの力で暴走し、視界に入った男に問答無用で襲い掛かる。行動はいつものあいつと変わらんが、威力は桁違いだ) 今の伊波を結界の外に逃がしてしまったら、平和な町が一転して地獄絵図に変わってしまう。どうにかしてここで倒さないといけない。 (女のお前たちなら殴られる心配はない。後はお前たちに任せた) 今の伊波に殴られたら、佐藤は一撃でひき肉になってしまう。さすがに戦場には出られない。 この場にユーノがいなくてよかったとなのは思った。 佐藤が話している間、伊波は壁に埋まった小鳥遊をサンドバックのように殴り続けていた。 「宗太さん!」 『Scythe Form』 バルディッシュが鎌へと姿を変え、伊波に振り下ろされる。 伊波の裏拳が、バルディッシュをフェイトごと吹っ飛ばす。 「ディバインバスター!」 なのはの砲撃を、伊波は無造作に殴り飛ばした。砲撃の軌道が捻じ曲げられ、青空へと吸い込まれていく。 「魔法を殴った!?」 なのはが素っ頓狂な声を上げる。 伊波の拳が建物を倒壊させ、小鳥遊ががれきの下敷きになる。 感情のない瞳で、伊波が次の獲物を探す。 やがて伊波の目がフェイトで止まった。 「えっ?」 正確には、伊波はバルディッシュを見つめていた。どうやら男性認定されたらしい。 『……Help me』 バルディッシュが珍しく気弱な声を出す。 電光石火の踏み込みで、伊波がフェイトの懐に入る。 「フェイトちゃん!」 なのはが伊波にバインドをかける。伊波の動きがわずかに鈍るが、光の輪があっさり引きちぎられる。 フェイトがバリアを張るが、伊波の右フックが易々と砕く。続けて放たれた左フックをバルディッシュで受け止めるが、あまりの怪力にフェイトごと壁にめり込む。 「ごめんね、伊波ちゃん。必殺ぽぷらビーム!」 「全力全開ディバインバスター!」 ぽぷらとなのはの全力の光線が、伊波に迫る。 「はあっ!」 気合いの声を上げ、伊波の回し蹴りが二つの光線を打ち落とす。 「これでも駄目なの!?」 伊波の拳がバルディッシュの宝玉を狙う。あの腕力では、バルディッシュごとフェイトが粉々になってしまう。 「ちょっと待ったー!」 血塗れになりながら、小鳥遊ががれきを押しのけ立ち上る。 「男ならこっちにいますよ!」 「男……いやああああああ!」 伊波が再び小鳥遊に襲いかかる。 「正気に戻って、伊波さん!」 「伊波ちゃん、今殴ってるの、かたなし君だよ!」 嵐のような連撃にさらされながら小鳥遊が、ぽぷらが叫ぶ。 必死の叫びが届いたのか、伊波ががくんと急停止する。朦朧とした顔で、小鳥遊を見つめる。 「……た、小鳥遊君?」 「よかった。意識を取り戻したんですね」 小鳥遊が安堵する。 「……私、どうしちゃったの?」 伊波が小鳥遊に尋ねる。しかし、互いの息がかかりそうなくらい顔が近い。意識した途端、伊波が赤くなり、頭から湯気が立ち上る。 「い、いやあああああああああ!」 「熱っ! 熱いです、伊波さん!」 伊波の体温が急激に上昇し、背中に日輪が出現した。錯乱した様子で、伊波は赤熱した右手の平を顔の前にかざす。 「私のこの手が真っ赤に燃える! 男を倒せと轟き叫ぶ!」 「やばい。この流れは……」 「爆熱、まひるフィンガァァー!」 「やっぱりぃぃぃー!」 伊波が右手で小鳥遊をつかみ天高く持ち上げる。 「ヒートエンドォッ!!」 小鳥遊が大爆発を起こす。 「宗太さん!」 「かたなし君!」 黒こげになった小鳥遊が無残に大地に倒れ伏す。 再び狂犬と化した伊波は、バルディッシュに次の照準を合わせる。 「なのは。大威力砲撃じゃ打ち落とされる。手数で攻めよう」 「わかったよ、フェイトちゃん」 三人の魔法少女が武器を構える。 「ディバインシューター!」 「フォトンランサー!」 「必殺じゃないぽぷらビーム!」 桜色の光球が、黄金の槍が、純白の閃光が、連続で撃ち出される。 伊波はマシンガンのようなジャブでそれらを迎撃する。伊波の拳は肉眼で捉えられないほど速い。どうにか足止めできているが、このままでは封印ができない。 「二人とも、時間稼ぎお願い」 伊波の足止めをなのはたちに任せ、フェイトは後ろに下がる。 フェイトの魔力が高まり、背後にいくつものフォトンスフィアが発生する。フェイトの最強の攻撃魔法フォトンランサー・ファランクスシフトだ。切り札はできるだけ温存したかったが、この状況で伊波を倒し、小鳥遊を助けるにはこれしかない。 「ファランクス、撃ち砕けー!」 三十八基のフォトンスフィアから、一斉にフォトンランサーが高速で連射される。伊波が必死に拳を繰り出すが、迎撃できる限界をはるかに超えていた。雪崩のようなフォトンランサーの群れに、伊波の両拳が跳ねあがり、防御ががら空きになる。 フェイトの手に魔力が集中し、長大な黄金の槍を形成する。 「スパークエンド」 投擲した槍が伊波の胸に突き刺さり、巨大な爆発を巻き起こす。余波で結界がきしみ、空がひび割れる。 「ちょっとやり過ぎじゃないかな!?」 「いや、これくらいやらないと撲殺少女まひるは倒せない」 突風にあおられながら、いつの間にかぽぷらの隣に佐藤が浮いていた。 爆発が収まると、陥没した地面の底に、封印されたジュエルシードと元の姿に戻った伊波が倒れていた。 ぽぷらが伊波に、フェイトが小鳥遊に駆け寄って抱き起こす。小鳥遊も爆発でかなり派手に吹き飛ばされていた。 伊波は気絶しているだけで、外傷はない。小鳥遊はところどころ焦げて打撲だらけだが、思ったより傷は浅い。これならいつも伊波に受けている被害と同程度だ。 「いたたたた」 頭を振りながら小鳥遊が起き上がる。ジュエルシードで強化されていたとはいえ、頑丈なものだ。とりあえず心配はなさそうだと、フェイトは安心する。 「よかった。二人とも無事みたいだね」 「ええ、どうにか」 背後からなのはが話しかける。無事と言うには語弊がある気がするが、小鳥遊本人が肯定しているのだからそうなのだろう。 「はい、フェイトちゃん」 明るい顔で、なのはがジュエルシードを差し出す。今回は、封印したフェイトの物だ。 「でも……」 「フェイトちゃんがいなかったら、私もぽぷらちゃんも伊波さんを止められなかった。だから、受け取って」 「うん」 「ところで、さっきの戦闘中、フェイトちゃん、私のこと初めて名前で呼んでくれたね」 「そ、そうだったかな?」 「うん。それでちょっとお願いがあるんだけど……。フェイトちゃんにも譲れない願いがあるのはわかってる。いつか戦う運命だってことも。でも、それでいいから、ここに……ワグナリアにいる間だけでいいから、友達になれないかな?」 一見、平和ボケした少女の能天気な提案に思える。だが、笑顔の奥から驚くほど悲壮な決意がフェイトに伝わってくる。 ほんのわずかでも運命を変えられる可能性に賭けたい。変えられなくとも、少しでもわかり合いたい。なのははそう考えていた。 (この子は、どうしてここまで?) フェイトは自問する。いや、それ以前に、どうして自分は彼女の決意が理解できるのか。 なのはの目を正面から見つめ返す。優しい家族に囲まれて幸せに暮らしているはずなのに、瞳の奥に孤独の影が垣間見える。 なのはが小さい頃、父親が仕事で重傷を負い、生死の境をさまよったことがある。母も兄も姉も、父の看病と翠屋の経営で手一杯で、なのはは一人ぼっちの寂しい日々を過ごした。 なのはの過去をフェイトは知らない。しかし、目の前の少女が、少し自分と似ていることだけは感じ取れた。だからこそ、なのはも友達になりたいと言ってくれたのだろう。 「わかった。ワグナリアにいる間だけ。それでいいよね、なのは」 気がつくと、フェイトはそう返事をしていた。 「うん!」 少しだけ泣きそうな、しかし、満面の笑顔でなのはは頷いた。 伊波の意識がゆっくりと覚醒する。 「目が覚めましたか? 伊波さん」 「あれ? 小鳥遊君?」 伊波は上半身を起こした。ワグナリアの休憩室で、伊波は椅子の上に寝かされていた。小鳥遊に目をやり、ギョッとする。小鳥遊はところどころ焦げていた。 「どうしたの!?」 山田同様、伊波に暴走している間の記憶はないようだった。 「色々ありまして。それより伊波さんです。どこか痛いところはありませんか?」 「うん。平気だけど」 「よかった。あ、でも無理はしないで、少し休んでて下さい。仕事なら俺たちでやっておきますから」 「ありがとう」 礼を言いながら伊波は再び横になる。どういうわけかやけに疲れている。目を閉じると、伊波はすぐに寝息を立て始めた。 和やかに話す二人を、壁にもたれたフェイトが少し複雑そうに眺めていた。 伊波が極度の男性恐怖症だと、フェイトはすでに知らされている。しかし、あれだけ酷い目に遭わされながら、どうして小鳥遊は伊波に優しく接するのか。 「フェイトちゃん、こっち、こっち」 なのはに呼ばれ、フェイトはフロアへと戻る。 「あの二人、仲がいいね」 二人並んでお皿を吹きながら、フェイトがなのはに話しかけた。 「お姉ちゃんから聞いたんだけど、伊波さん、小鳥遊さんのことが好きなんだって。小鳥遊さんには内緒だよ」 ワグナリアでは公然の秘密だ。知らないのは小鳥遊本人ぐらいだろう。 フェイトの手から、お皿が滑り落ちる。地面に落ちたお皿は乾いた音を立てて砕け散った。 「お皿を割りましたね!」 いつの間にか仕事に復帰した山田が、ほうきとちりとりを持って現れる。 「ごめんなさい」 「そういう時は、先輩に任せなさい」 破片に直接触らないよう、ほうきとちりとりで片づけていく。割りまくりクイーンを自称するだけあって手慣れている。 「では、後は先輩が捨ててきてあげます。破損報告書に書いておいてください」 「待て、山田」 ゴミ箱に向かおうとする山田を、フロアに戻ってきた小鳥遊がひき止める。小鳥遊はちりとりを山田から奪うと中を覗き込んだ。 「やっぱりな。出てくるタイミングが早すぎると思ったんだ」 ちりとりの中には二枚分のお皿の破片が入っていた。どうやらフェイトが割ったのを幸いと、利用する魂胆だったようだ。自分の割った分を隠蔽するか、あるいは破損報告書の数字を書き換えるつもりだったか。 「フェイトちゃん怪我はない?」 「はい」 山田が全力で逃亡を企てているが、小鳥遊はしっかりつかんで離さない。 「よかった。これからは気をつけてね」 「誰か、誰か山田を助けて下さーい!」 小鳥遊が顔に笑みを張りつけたまま、山田を奥へと引きずって行く。やがて小鳥遊の説教と怒声がかすかに響いてきた。 「ふえー。小鳥遊さんって怒るとあんなに怖いんだ」 なのはが少し首を縮める。 至近距離でやられたらかなりの迫力があるだろう。小鳥遊の説教に山田の泣き声が混じり始めていた。 時刻は夜の十時、小鳥遊家では、梢とアルフの酒盛りが行われていた。 いつもなら、夜にジュエルシードを探すのだが、伊波の一件で疲れたので今日は休みだ。探索が休みとあって、アルフはいつもより深酒をしている。 赤ら顔で楽しげに談笑しているが、小鳥遊が横を通り過ぎようとすると、アルフが横目で助けを求めてきた。 「?」 小鳥遊は梢たちの会話に耳を傾ける。 「でね、☓☓☓が、○○○で――」 梢がノリノリで猥談をしていた。小鳥遊は思わず膝が砕けそうになる。どうやらアルフが赤い顔をしているのは、酒のせいだけはないらしい。 関わり合いたくはなかったが、このまま放置するとなずなやフェイトにまで飛び火しかねない。 「二人とも飲み過ぎですよ」 小鳥遊が救援がてら苦言を呈する。乱立するから酒瓶を片づけようとし、梢が食べている物の正体に気がつく。 「って、梢姉さん、何食ってんだ!?」 「おつまみ」 梢はろれつの回らない様子で、茶色いスナック菓子の様な物を食べている。 「それ、ドッグフードだぞ」 「知ってる。初めて食べたけど、結構おいしいね」 指摘しても構わず食べ続けている。 「宗太さん、お風呂空きました」 フェイトがパジャマ姿で部屋に入ってくる。 「ほら、梢姉さんも明日早いんだろ。とっとと風呂入って寝ろよ」 「ぶー。これから盛り上がるところなのに」 梢を風呂場へと追っ払う。明日は新しい彼氏とデートの予定だ。明日いっぱい持てばいい方だろうと、小鳥遊は考えている。 「助かったよ、小鳥遊」 アルフが額の汗を拭いながら安堵する。梢とはウマが合うが、さすがに猥談だけは勘弁して欲しかった。 「宗太さん、お休みなさい」 「お休み」 フェイトと一緒にアルフも寝室に戻っていった。 ベッドに入るなり、フェイトはため息をついた。 「フェイト、疲れてるのかい?」 最近は食事もしっかり取るようになったので、健康に問題はないはずだが。 「ううん。そうじゃないの。ただ、早く大きくならないかなって」 フェイトはアルフと自分の身長を比べて、またため息をついた。 「どうして?」 これまでフェイトがこんなことを言ったことはない。何か心境の変化があったのだろうか。 「ワグナリアの伊波さんって知ってる?」 「ああ、お店で何度か梢ちゃんと一緒に話したことがあるよ」 「あの人、宗太さんのことが好きなんだって」 「へ、へえ、そうなんだ」 実はアルフは梢から聞いてすでに知っている。 梢は小鳥遊と伊波をくっつけようと企んでいるのだ。利害が一致しているので、アルフは応援している。 「たぶん、宗太さんも伊波さんを好きなんだと思う」 「そうなのかい!?」 「でなきゃ、あんなに殴られてるのに気遣ったりしないよ」 フェイトは枕を抱きしめる。 男性恐怖症を治す一環として、小鳥遊は伊波と一緒に帰宅している。今日はフェイトも加わって三人だ。マジックハンド越しだが、手をつないで歩く二人の姿は、フェイトには恋人同士のように見えた。 例え虐げられても、フェイトが母の為にジュエルシードを探すように、小鳥遊もどれだけ殴られても、伊波の男性恐怖症を治そうと頑張っている。 その奥底にあるものは、形は違っても愛と呼ぶべきものだ。 「宗太さん、年上好みだったんだ」 しかし、フェイトの結論は少しずれていた。 本人は否定するだろうが、小鳥遊と姉三人は仲良しだし、アルフとも飾らずに接している。伊波は小鳥遊より一つ年上だ。 可愛がられる代わりに、本音で接してもらえない。蚊帳の外に置かれているような気分にフェイトはなるのだ。 「私、大きくなりたい」 フェイトが毅然と言った。 小鳥遊の好みを誤解しているような気がするが、アルフに強く否定する根拠があるわけではない。張り切る主人を、アルフは生温かい目で見守るしかなかった。 バルディッシュの中でジュエルシードが、一瞬怪しげに輝いた。 目次へ 次へ
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自分がプレシアの娘の紛い物であり、母親から全く愛されていなかったことを知らされ、フェイトが放心状態で崩れ落ちる。それをアルフが抱きとめ、慌てて医務室へと運んでいく。 アースラブリッジは、一気に騒然となる。 時の庭園から膨大な次元エネルギーが放射されている。このままでは大規模な次元震が起きるのは時間の問題だ。 さらに庭園内には八十体以上の傀儡兵が出現し、送り込んだ部隊を足止めしていた。 「僕が行きます」 「クロノ、その体じゃ無理よ」 「部隊の指揮くらいなら執れます。行かせてください」 クロノは強い決意を込めて言った。とても止められそうな雰囲気ではない。 「わかりました。出撃を許可します。ただし無茶をしたら駄目ですよ」 クロノが頷き、時の庭園へと転送されていく。 「私たちも行かせてください」 「かたなし君を助けないと」 なのはとぽぷらが名乗りを上げる。魔力は回復してもらったが、疲労や負荷は残っている。万全の状態には程遠い。 「エイミィ。彼女たちを投入した場合の作戦成功率は?」 「好意的に見積もっても二十パーセントもありません」 「駄目です。そんな危険な作戦に、あなたたちを投入するわけにはいきません」 リンディは首を振る。 クロノの弱体化がここでも影響していた。本来のクロノならば一部隊に匹敵する働きができるのに。 「せめて、後一部隊あれば……」 「何とかなるかもしれません」 発言したのはユーノだった。 「どういうこと?」 ユーノは空中にワグナリア近辺の地図と、ジュエルシードが発見された位置を投影する。 「前から疑問に思っていたんです。どうしてジュエルシードはワグナリアに引き寄せられたのか」 「それは小鳥遊さんに引き寄せられたって……」 「それだと辻褄が合わないんです」 夏休みの今、小鳥遊が一番長い時間過ごす場所は自宅だ。なのに、小鳥遊家に引き寄せられているジュエルシードはない。 「つまりワグナリアには小鳥遊さん以外にも引き寄せる要因があったんです」 「あっ」 ぽぷらがあることを思い出した。ユーノが頷く。 「確証はありませんし、かなりの危険を伴います。でも、鍵はワグナリアにいます」 ユーノは地図上のワグナリアを指差した。 時の庭園内に、ワグナリアの制服を着た女が転送されてくる。赤縁の眼鏡に激しくカールした前髪、松本麻耶だった。何故か荒縄で拘束されている。 「って、ここどこなのよー!」 松本は混乱した様子で叫ぶ。 通路はところどころ壊れて赤い空間がのぞいている。おどろおどろしい赤色は、まるで怪物の口の中のようで不気味だった。全ての魔法がキャンセルされる虚数空間と呼ばれる場所で、落ちれば重力の底まで真っ逆さまだ。 残された床には、西洋の甲冑に似たデザインの傀儡兵が徘徊していた。 「落ち着け、松本」 「佐藤さん、いきなりこんなとこに連れてきて――!」 松本は縄の先を握る佐藤を見て、絶句する。セーラー服を着たぽぷらの肩に、手の平サイズの佐藤が乗っていた。 松本たちを発見した傀儡兵が襲いかかってくる。 「必殺ぽぷらビーム!」 ぽぷらが木の枝から光線を放ち、傀儡兵たちを倒していく。 松本は頭を抱えてしゃがみこんだ。 (違う。こんなこと現実にあり得るわけがない。そう、これは夢よ!) 人間が小さくなったり、木の枝から光線が発射されたり、ロボットが歩いていたり、全部夢だと思えば納得できる。 「…………って、納得できるかー!」 松本が一転して怒りの咆哮を上げた。 「普通な私の夢が、こんな普通じゃないはずがない! 私の夢なら、もっと普通になりなさいよ!」 佐藤が松本の巻き毛にジュエルシードを差しこむ。その瞬間、不可視の領域が松本を中心に発生した。 傀儡兵の動きが格段に鈍くなり、ぽぷらと佐藤の変身が解ける。 「成功だよ、佐藤さん!」 「さすがだ。普通少女麻耶」 ぽぷらのハイタッチを受けながら、佐藤が感心したように呟く。 佐藤が松本から回収したあの日、ジュエルシードはすでに発動していた。松本の能力は普通フィールドの展開。その領域内では、あらゆる魔法、超常現象が無効化される。 佐藤たちは知らずに普通フィールドに踏み込み変身を解除されたのであって、ぽぷらが気をきかせたわけではない。 ジュエルシードをワグナリアに引き寄せていたもう一つの要因は松本だった。小鳥遊同様、松本の普通じゃないほど普通を願う気持ちがジュエルシードを上回ったのだ。 ロストロギアを超える欲望を持つ人間が二人もいるとは、さすがにワグナリアは変態の巣窟だ。案外、探せば他にもいるのかもしれない。 しかし、さすがに傀儡兵の存在自体は消滅させられないし、普通フィールド内では味方も魔法を使えない。 「出番だぞ」 佐藤の言葉に反応するように、釘バットが手近にいた傀儡兵を屠る。魔法防御がなくなり、関節部分がかなり脆くなっている。これなら普通の人間でも倒せるだろう。 「こいつらか。うちのバイトを誘拐した不届きな連中は」 残骸をハイヒールで踏みつけ、白藤杏子が釘バットを肩に担ぐ。 「そうだ。救出を手伝ってくれたら、一カ月間、好きな時に飯を作ってやる」 「その約束忘れるなよ、佐藤」 真横から傀儡兵が槍で杏子を狙う。しかし、槍が届く寸前で胴体を両断される。 「ふふふふ。杏子さんに手を出す輩は、全て八千代が抹殺いたします」 危険な妖気を漂わせ、八千代が日本刀を構えていた。 杏子も八千代も、怪しげなロボットたちが動き回るこの状況にまったく違和感を抱いていない。杏子は細かいことに拘らない性質の上、ご飯が一番大事だし、八千代にとっては杏子の敵を倒すことだけが重要なのだ。 「もう少し時間があれば、陽平と美月も呼んだんだがな」 杏子が軽く舌打ちする。杏子の舎弟たちの名前だ。 「ね、ねえ、種島さん、こいつら何なの!?」 伊波がおろおろと周囲を見渡す。伊波は前の二人のようにはいかなかったようだ。 「かたなし君を助けるためだよ。伊波ちゃん頑張って!」 「む、無理だよ。こんなのと戦うなんて……」 佐藤は伊波からなるべく距離を取り、メガホンを口に当て、決定的な一言を放った。 「伊波、あいつら、全部男だぞ」 「いやあああああああああああああ!」 伊波の拳がまるでブルドーザーのように傀儡兵を粉砕していく。 伊波の横では酒瓶を抱えた女が泥酔状態で戦っていた。小鳥遊梢だ。 「また振られたー!」 梢は泣き喚きながら、繰り出される武器を千鳥足でかわしながら近づいていく。梢は傀儡兵をつかむと、頭を、腕を捻じ切っていく。合気道講師らしいが、酔拳使いにしか見えない。 「こうなったら、とことん暴れてやるー! 後、宗太にお酒いっぱい買ってもらうー!」 松本と一緒に、店にいた腕の立つ連中を集めてきたのだが、思った以上の大活躍だった。できれば、恭也と美由希も連れて来たかったのだが、残念ながらまだ店に来ていなかった。 あっという間に、通路にいた傀儡兵たちはすべて残骸に変わっていた。 「じゃあ、後は任せた」 いつでも連絡が取れるよう通信機を杏子に渡す。ここから先、佐藤とぽぷらは別行動だ。 奥から、新たな傀儡兵の軍団がやってくる。 「よし、お前ら、行くぞ!」 明日のご飯の為、杏子は釘バットを振りかざして敵に挑んで行った。 チーム・ワグナリアの破竹の快進撃を、ブリッジでリンディが呆れたように眺めていた。傀儡兵の掃討は、彼らとクロノたちに任せていいようだ。 「なのはさん、出撃の準備をして」 「はい」 リンディに言われ、なのはとユーノが転送装置へと向かう。 情けない話だが、現在のアースラの戦力でプレシア捕縛の可能性があるのは、なのはたちくらいだろう。もしもの場合は、リンディがバックアップするつもりでいる。 「待って。私も行く」 フェイトがアルフを連れてブリッジに入ってくる。放心状態で医務室に運ばれたはずだが、瞳に強い意志の輝きが戻ってきている。 「フェイト、いいのかい?」 アルフが心配そうに尋ねる。フェイトが行けば、プレシアと対峙することは避けられない。アルフはこれ以上、フェイトに辛い思いをして欲しくなかった。 「うん。宗太さんを……みんなを助けたい。なのはたちの……友達の力になりたい。それに、母さんともう一度会わないといけないから」 この世界で出会った人たちの顔を一人一人思い出す。変わった人が多かったが、誰もがフェイトに優しくしてくれた。このまま次元震が起これば、小鳥遊家やワグナリアのみんなまで死んでしまう。そんな結末は絶対に嫌だった。 「上手くできるかわからないけど」 フェイトがバルディッシュに魔力を注ぎ込むと、破損していた個所が修復されていく。 「フェイトが行くなら、もちろんあたしも行くよ。あの男には色々借りもあるしね」 アルフが指をパキパキと鳴らす。 「行こう、みんな」 バリアジャケットを装着し、フェイトはなのはたちを振り返る。 「よーし! 伊波ちゃん以来の共同戦線だね」 ぽぷらが張り切ってポーズを決める。 「ポプランポプランランラララン、魔法少女ぽぷら参上!」 「魔法少女リリカルなのは見参!」 「……フェ、フェイト・テスタロッサです」 ノリノリでポーズを決める二人の横で、フェイトがぺこりとお辞儀をする。 「フェイト。付き合わなくていいよ」 「えっと、そうしなきゃいけないのかと思って」 頭痛を堪えるアルフに、フェイトは照れながら弁解する。 佐藤が全員を見回して宣言した。 「さあ、選ばれし三人の魔法少女たちよ。今こそ魔王を倒し世界を救うのだ!」 「佐藤さん、ちょっと違うよ!?」 ぽぷらがつっこむ。むしろ魔王の救出が目的のはずだが。 「とりあえず出発しましょうか」 間抜けなやり取りに脱力しながら、ユーノが時の庭園へと転送魔法を発動させた。 時の庭園で激戦が繰り広げられている中、もう一つの戦場が地上にあった。 「8卓、カレーとチキンドリア、お子様ランチです!」 切羽唾待った様子で美由希が相馬に告げる。 「高町君、次は肉とキャベツ切って。千切りね!」 相馬が二つの鍋を火にかけながら叫ぶ。 「なずなちゃん、ラーメン、2卓へ」 「山田さん、パフェ三つお願いしますね!」 料理を運ぶ途中で、なずなが山田に言う。 「山田は、山田は混乱しています!」 山田が生クリームとアイスの箱を持ちながら右往左往する。 主なメンバーが不在の今日に限って、ワグナリアは満席だった。しかも注文も時間がかかるものばかりだ。 恭也はまだ一人で料理が作れるほど習熟しておらず、相馬は丁寧に調理をするので、あまり速い方ではない。手際のいい佐藤の不在が特に痛かった。 「相馬さん、他のスタッフの電話番号知らないんですか?」 「もちろん知ってるけど、俺の権限で呼べるわけないよ!」 「相馬さんの役立たず!」 山田は半泣きで喚く。泣きたいのは相馬も同じだった。 「とにかく、もう少しだけ辛抱して!」 「まずいよ、お客さん、だいぶ怒ってるよ」 美由希が客席を眺めながら言った。長時間待たされて爆発寸前のお客さんがちらほら見受けられる。美由希となずなの二人でどうにか抑えてきたが、さすがにこれ以上は難しい。 クレームが来た場合、店長かチーフが応対するのが常だが、今は誰もいない。ばれたら、店の存続に関わるかもしれない。 その時、従業員入口を通って、一人の男性が入ってきた。山田の顔が歓喜に輝く。 「音尾さん!」 「よかった、間に合った!」 「ちょうど近くを旅していてよかったよ。相馬君、苦労をかけたね」 ネクタイを締めて髪をオールバックにした穏やかな風貌の男性だった。この店のマネージャー、音尾兵悟だ。佐藤が杏子たちを連れて行った時に、念のため連絡しておいたのが功を奏したようだ。 「とりあえず呼べるだけの人員を集めてきたから」 どやどやと制服に着替えたスタッフが入ってくる。旅行や遊びから帰ってきたばかりのパートのおばさんと他のバイトたちだ。 「でも、お客さんが……」 「僕に任せて」 音尾は客席へと歩いて行き、一人一人に料理が遅れていることを謝罪していく。中には食ってかかる客もいたが、音尾の穏やかさと誠実さに、店内の雰囲気が徐々に落ち着いていく。 「すごい」 恭也と美由希が感嘆する。店をほったらかしにする無責任な男と思い込んでいたが、仕事はかなりできるようだ。 「どうです。山田のお父さん(予定)はすごいでしょう!」 山田が鼻息も荒く威張り散らす。予定とはどういう意味か問い詰めたい気もしたが、もはや恭也には気力が残っていなかった。 仕事が一段落し、キッチンもフロアも落ち着きを取り戻していく。 相馬たちは仕事をパートの人たちに任せ、休憩に取ることにした。山田は休憩室に入るなり机に突っ伏して眠ってしまう。よほど疲れたのだろう。 「山田さん、仮眠取るなら屋根裏に行った方がいいよ。山田さん?」 相馬が揺するが、山田はすでに夢の世界へと旅立っていた。 そこに音尾がやってくる。 「相馬君、本当に大変だったね」 「はい。それで店長のことなんですが……」 「言わなくていいよ。白藤さんのことは信じてるから。どうしても店を空けなければならない理由があったんでしょ?」 音尾が仏のような笑顔を浮かべる。あまりの眩しさに相馬は少しめまいを感じていた。 十個のジュエルシードが膨大なエネルギーを放っている。中心には、小鳥遊がはりつけにされていた。 「もう少しよ。待っていて、アリシア」 アリシアの入ったポッドに愛おしげになでながら、プレシアは小鳥遊に目をやる。 暴走させたエネルギーを小鳥遊に注ぎ込み結集させて撃ち出す。これで次元に穴を開け、アルハザードへの道を作ることができるはずだ。 エネルギーの充填はもうじき終わる。 プレシアが激しく咳き込んだ。 「こんな時に……」 体から力が抜けていく。いつもの発作の比ではない。足から力が抜け、ポッドに寄りかかるようにずるずると崩れ落ちていく。 「私はまだ死ねない。死ねないのよ」 しかし、咳は止まらず、大量に喀血する。プレシアはジュエルシードに手を伸ばし、そこで意識を失った。 通路を埋め尽くす傀儡兵たちをユーノとアルフのバインドが拘束する。 「必殺ぽぷらビーム!」 「ディバインバスター!」 二条の光線が傀儡兵たちを消し飛ばす。 「なのは、大丈夫?」 片膝をついたなのはを、ユーノが気遣う。連戦に次ぐ連戦に、なのはの疲労は極限に達しようとしていた。 「こっちは一目瞭然だな」 と、佐藤。 ぽぷらの身長は普段の三分の一になっていた。行使できる魔法も後わずかだ。 クロノが率いる局員たちは暴走している駆動露の鎮圧へ、チーム・ワグナリアは傀儡兵との戦闘を続けている。 『敵、増援!』 エイミィの切羽詰まった声、 通路に新たな一団が押し寄せてくる。 「どれだけいるんだ」 佐藤が舌打ちする。 「なのは、みんな、伏せて。サンダースマッシャー!」 巨大な稲妻が、なのはたちの頭上を通り過ぎ傀儡兵をなぎ倒す。 プレシアの待つ中枢部は目と鼻の先だ。壁をぶち破り、なのはたちはプレシアの部屋へと突入する。 プレシアがポッドに寄り掛かるように倒れていた。 「母さん!」 駆け寄ったフェイトが抱き起こすと、プレシアは浅い呼吸を繰り返していた。まだかろうじて息がある。 『次元エネルギー、さらに増大!』 エイミィが悲鳴を上げる。リンディまで出撃し次元エネルギーを抑えているが、もういつ次元震が発生してもおかしくない。 プレシアの制御を失い、ジュエルシードの暴走は手がつけられない状態になっていた。 「フェイトちゃん、封印を!」 「わかった!」 なのはとフェイトが近づこうとすると、発生したエネルギー障壁にはね返される。 「なら、大威力魔法で」 なのはがカノンモードを、フェイトがグレイヴフォームを起動させる。 しかし、 『『Empty』』 二つのデバイスが無情に告げる。ここに辿り着くまでに二人とも魔力を使い切っていた。アルフとユーノも似たり寄ったりの状況だ。 「それなら、スターライトブレイカーを」 大気中に残存する魔力を集めるスターライトブレイカーならば、チャージに時間さえかければまだ撃てる。 「駄目だ、なのは」 ユーノがレイジングハートを押さえる。 「でも」 「これ以上、負担の大きいあの技を使っちゃ駄目だ。残念だけど、スターライトブレイカーでもあの障壁は破れないよ」 「そんな」 なのはががっくりと膝をつく。 スターライトブレイカーが通用しないのなら、ぽぷらビームも同様だろう。 万策は尽きたかに思える。しかし、ユーノの顔に絶望の色はなかった。 「諦めるのはまだ早いよ。大丈夫、僕たちにはまだ最後の希望が残っている」 ユーノがぽぷらを振り返る。 「そうか」 佐藤がユーノの言わんとするところを理解する。ぽぷらが何を代償に魔法を使っていたのか。 「身長だ」 「佐藤さん、了解だよ!」 ぽぷらが木の枝を構える。佐藤がぽぷらの手に手を添える。そして、なのはが、フェイトが、ユーノが、アルフがぽぷらたちの背に手を置いた。 「みんな、みんなの身長を私に分けて!」 全員の身長を魔力に変換し、これまでとは段違いの膨大な魔力が木の枝に集中する。 「超必殺、ぽぷらブレイカー!」 時の庭園を揺るがすような巨大な光線がジュエルシードへと放たれる。しかし、ジュエルシードの障壁を打ち破るには至らない。 「撃ち続けろ!」 全員が凄まじい勢いで縮んでいき、とうとう親指サイズにまでなってしまう。 「とーどーけー!」 ぽぷらが叫ぶ。 その時、エネルギー障壁がわずかに出力を弱めた。ぽぷらブレイカーが障壁を粉砕する。 なのはとフェイトがデバイスを突き出す。 「リリカルマジカル」 「ジュエルシード」 「「封印!」」 ジュエルシードが二つのデバイスへと吸い込まれていき、時の庭園が静寂に包まれる。 『……次元エネルギー反応消失。作戦成功です!』 静寂を破るように、アースラからエイミィと局員たちの喝采の声が届く。 なのはたちはへなへなとその場にへたり込む。もはや立ち上がる気力も残っていなかった。 ふらつくぽぷらを、佐藤が抱きとめた。 「佐藤さん」 「なんだ?」 ぽぷらは佐藤に寄りかかったまま話しかける。 「私ね、ジュエルシードに感謝してるんだ」 「変わった奴だな。これだけ面倒事に巻き込まれたのにか?」 「うん。だってジュエルシードは私の願いを二つも叶えてくれたから」 「二つ?」 おっきくなる以外のぽぷらの願いなど、佐藤には見当もつかなかった。しかもジュエルシードはそれすら叶えていない。 「佐藤さん、私のこと、名前で呼んでくれたでしょ。それから、ほら」 今の状態で、ぽぷらが背伸びすると、佐藤の顔の高さと大体同じになる。ぽぷらは照れたように笑う。 「佐藤さんとつりあう背になること。これが私の願い」 思い切って気持ちを伝えると、佐藤が顔を背けた。 (やっぱり駄目か) ぽぷらは寂しげに目を伏せる。こうなることはわかっていた。ならば、せめてもう少しこのままでいたかった。 「……今度」 佐藤がぽつりと言った。 「…………休みが重なったら、遊園地でも行くか」 激しい懊悩を隠すように、佐藤は手で顔を押さえていた。指の隙間から真っ赤になった顔が覗いている。 「お子様とのデートは遊園地が相場だからな」 「私、子供じゃない……!?」 反射的に叫び返そうとし、佐藤の言葉の意味に気がつく。佐藤につられて、ぽぷらの顔まで赤く染まる。 「さ……」 「何も言うな」 佐藤がつっけんどんに言う。照れ隠しだろう。 「……三つ目の願いまで叶っちゃった」 ぽぷらは心から幸せそうに笑った。 アルフが盛大に咳払いをする。 「いちゃつくのはいいけどね、ここにはお子様がたくさんいるってことを忘れないで欲しいね」 周囲を見渡すと、みんなが赤い顔でこちらを注視していた。 『ごめーん。通信回線も開いたままなんだ』 エイミィが申し訳なさそうに、だが、楽しそうに言った。画面の向こうから局員たちの冷やかす声が聞こえてくる。 「もおおおおおおお! 佐藤さん、時と場所を考えてよ!」 「最初に言ったのはお前だろうが。お前のせいだ」 「二人とも……」 なだめようとするフェイトを、なのはが止める。 「いいの、いいの。これがいつもの二人なんだから」 なのはは心の中でぽぷらたちを祝福する。 時の庭園に、二人の言い合う声がいつまでも響き渡っていた。 目次へ 次へ
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シーンを組み立てる際は図面の傾きを初期状態(傾き無し、図面のセンターは0,0,0)に戻した方がシーン全貌と各オブジェクトの位置関係がわかりやすくて良いですよね。(訳者注:ここらへん意訳) 図面の傾きや位置を初期状態に戻す方法 ・メニューバーの「 View Send Working Box to Origin」をクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3771.html
アースラブリッジで、リンディは息子クロノの戦いをモニター越しに見つめていた。栗色の髪の女の子は、情報屋が送ってきた写真と合致する。小鳥遊と呼ばれた男が、情報屋の知人なのだろう。 『惜しい!』 拘束されたままの小鳥遊が、無念の表情でクロノを見る。 『はっ?』 『ものすごく惜しい!』 クロノは小鳥遊が何を言っているのか全然理解できない。 小鳥遊基準では、紙一重で年増にカテゴリーされてしまったのだ。見た目は少年でも、実年齢は十四なので間違ってはないのだが。 大好物を食べようとしたら、昨日で賞味期限が切れていたような、がっかり感を小鳥遊は味わう。せめて後数カ月早く会っていたら、ちっちゃいものの方にカテゴリーされていただろう。それほどわずかな差だった。 『馬鹿なこと言ってないで、逃げるんだよ!』 アルフが小鳥遊の拘束を破壊し、戦場から離脱しようとする。 『逃がすか!』 クロノの放つ魔力弾を、小鳥遊たちはぎりぎりで回避する。アルフがフォトンランサーを手当たり次第炸裂させ、周囲が爆煙で埋め尽くされる。 『待って!』 『邪魔をするな!』 モニターが煙に遮られ、音声だけが途切れ途切れに伝わってくる。 どうやら小鳥遊たちを追いかけようとするクロノを、栗色の髪の女の子が止めているようだ。 煙はまだ晴れない。やがてクロノがやや不機嫌な様子で通信を送ってきた。 『すいません、艦長。二人逃がしました』 「構いません。まずはそちらのお二人から事情を聞きましょう。アースラに案内して」 『了解』 返事をするクロノの声がいつもより高く聞こえ、リンディは眉を潜めた。 「クロノ執務官、喉をどうかしましたか?」 『特に問題ありませんが?』 ようやくモニターの煙が晴れる。そこに映っていたものを見て、リンディは思わず立ち上った。 「ク、クロノ執務官!」 クロノは怪訝な顔で、自分の手を見下ろす。ぷくぷくとした子供の手だった。 『な、なんじゃこりゃああああ!』 クロノの姿は三歳くらいの幼児のものになってしまっていた。 なのははぽぷらたちと合流し、アースラへと招かれた。 簡単な検査を済ませた後、クロノの案内で通路を歩いていく。クロノの歩幅が小さくなってしまったので、進行はゆっくりとしたものだった。 おそらく逃走時に小鳥遊が苦し紛れに放った魔法に当たったのだろう。クロノ、痛恨のミスだった。あるいは小鳥遊の執念の産物か。 通路の途中で、なのはがユーノに質問した。 「ねえ、時空管理局って何?」 「簡単に言ってしまえば、僕らの世界の警察かな。次元世界の法と秩序を守っているんだ」 手の平サイズの佐藤がクロノの隣に並び声をかけた。 「もう変身を解いてもいいか?」 「ああ、構わない」 クロノは心ここにあらずといった様子で返事をする。いきなり幼児の姿にされてしまったのだから、仕方ないだろう。装備も全て肉体相応に縮んでいる。 なのはとぽぷらが変身を解除し、佐藤も元の大きさに戻る。 「それじゃ、僕も」 ユーノが光に包まれ、金髪の男の子の姿に変身する。 「……ユーノ君、その姿は?」 なのはもぽぷらも目を丸くして驚く。 「あれ? なのはには前に見せたことなかったっけ? これが僕の本当の姿なんだ」 なのはは首を左右に振る。 「おい、その話はひとまず横に置いておけ。着いたみたいだぞ」 佐藤が注意する。 着いた先は艦長室だった。クロノと共に一行は入室する。 中では、リンディが人数分のお茶とお菓子の用意をして待っていた。赤い敷物の上で、なのはたちとリンディが向かい合って座る。 互いに自己紹介を済ませると、リンディが各人から事情を聴いていく。それを終えると、リンディは深々と溜息をついた。 「どうやら、あなた方はジュエルシードの危険性を理解していないようですね。でなければ、そもそもジュエルシードの魔導師と共闘など考えないはずです」 「どういうことですか?」 ユーノが真剣な顔で尋ねる。 「あれは次元干渉型エネルギー結晶体。使い方次第では、次元震や次元断層すらひきおこす危険なものだ。もしかしたら、君たちのせいで世界がほろんでいたかもしれないんだぞ」 答えたのは壁際に立っていたクロノだった。話の内容はシリアスだが、三歳児の外見と舌足らずな声では台無しだった。 「クロノ執務官。説明は私がします」 リンディが咳払いして場の空気を整える。そして、クロノの姿を見て困り顔になる。 「それにしても、縮小魔法の使い手ですか。厄介ですね」 「すいません。不覚を取りました」 クロノは、心底情けなさそうだった。 「あ、でも、魔力を注げば元に戻るはず」 「それが駄目なんです」 ぽぷらの意見に、リンディは首を振る。 検査の結果判明したことだが、ぽぷらと佐藤が縮む際には、ただ全体的に小さくなるだけで、頭身、体の比率などに変化はない。しかし、小鳥遊の魔法で縮んだクロノは、肉体が若返っている。似ているようで原理がまったく違うので、ぽぷらの方法は通用しない。 リンディも機会があれば、少しかけて欲しいくらいだった。 アースラスタッフが総出で解呪方法を探しているが、おそらく小鳥遊本人でなければ解けないだろう。 「本来なら、後は私たちに任せてと言いたいところだけど……」 現在のクロノは、三歳の頃の筋力と魔力しかない。クロノの才能と経験があれば末端の隊員程度の働きはできるが、フェイト、アルフ、小鳥遊を相手にするには心もとない。いきなりアースラの切り札が封じられた形だ。 今から増援を手配して果たして間に合うかどうか。 「あの、私たちに協力させてもらえないでしょうか?」 なのはが提案した。 これで面倒事から解放されると思っていた佐藤が顔を引きつらせる。 「このまま黙って見ているなんてできません。フェイトちゃんは友達だから」 「……断ることはできないわね。切り札を失った以上、こちらも手札が多いに越したことはないから」 「艦長、まさか彼女も使うつもりですか!?」 クロノがぽぷらを示す。 「ええ、向こうがジュエルシードの魔導師を使ってくるなら、こちらも対抗策がいります。これまで何度も戦闘をしているのだから、暴走の心配は多分ないのでしょう」 少しでも危険な兆候があれば、すぐにジュエルシードを封印することを条件に、リンディが許可を与える。 「ありがとうございます!」 「そうだよね。最後まで頑張ろうね、なのはちゃん」 礼を言うなのはに、息巻くぽぷら。 「それじゃあ、四人ともお願いします。今日はアースラに泊っていって。エイミィ、彼らを部屋に案内して」 「はいはーい。」 リンディに呼ばれ、青い制服を着たショートカットの女の子が扉を開けて入ってくる。エイミィは壁に立つクロノを見るなり、奇声を発した。 「クロノ君、可愛いー!」 「エ、エイミィ!」 エイミィが駆け寄ってクロノを抱き上げる。 クロノはごついロングコートのようなバリアジャケットを着ているのだが、小さくなったことで、全体的に丸っこいシルエットになっている。それがまるでぬいぐるみのような愛くるしさを放っていた。 「モニター越しでも可愛かったけど、実物はもっと可愛いー!」 「あ、エイミィずるい。私もー!」 これまでは艦長の威厳を保つため、我慢していたのだろう。リンディも反対側からクロノを抱きしめる。 クロノが必死にもがくが、三歳児の筋力で抗えるはずもない。 「佐藤さん、ミニコンってどこの世界にもいるんだね」 「そのようだな」 客人などそっちのけではしゃぐリンディたちを、佐藤たちは遠巻きに見守る。誰もクロノを助けようとはしない。 「お待たせしてすいません。こちらになります」 ややあって、艦長室の異変を察知したオペレーターAが、疲れた顔でなのはたちを部屋に案内してくれた。 その頃、小鳥遊の自室で、小鳥遊とアルフは、フェイトに今日起きたことを報告していた。 「そう、時空管理局が……」 報告を聞き終え、フェイトが思案する。 「これ以上はやばいよ。もうやめよう?」 「ううん。もうちょっとだから」 「でも、後七個もあるんだよ?」 探している間に捕まってしまう公算の方が高い。 「これだけ探しても見つからないってことは、多分海の中だと思う。ちょっと危険な賭けになるけど、残りを集める方法ならあるから」 フェイトは小鳥遊に向き直る。 「宗太さんの家の場所って、佐藤さんと種島さんは知ってますか?」 小鳥遊家には、かつてのフェイトたちの隠れ家と同様に二重、三重に探知を妨害する結界が張ってある。いくら時空管理局でも、魔法での発見は当分心配しなくていい。 「いや。知ってるのは伊波さんと山田、後は店長くらい。でも、調べればすぐばれるよ?」 「なら、平気です。時空管理局も今すぐには動かないはず。今日はゆっくり休みましょう。明日ですべての決着をつけます」 フェイトはきっぱりと宣言した。 深夜、リンディの元に通信が届いた。 「こんな時間にかけてくるなんて、少し非常識じゃないかしら? 相馬君」 『すいません。ちょっと急を要したもので』 リンディが通信画面を開くと、ワグナリアスタッフ相馬博臣の顔が映し出される。 「今日は携帯じゃないのね」 『今回はデータを送らないといけないので、パソコンからです。ところで、あの携帯、もう少しどうにかなりませんかね? ごつくて持ち運びには不便だし、音質が悪くて会話しづらいし』 「それは開発部にお願いしてちょうだい」 情報屋の正体は、相馬だった。あの怪しい通信は一応わざとではない。 魔力を持たない普通の人間のはずなのに、相馬の情報網は時空管理局の内部に深く食い込んでいる。次元間通信を可能にするあの携帯電話も、時空管理局から特別に貸与されたものだ。 リンディも任務の際に、何度か相馬の情報の世話になったことがある。 「それで、何かわかったの?」 『はい。どうやら事件の首謀者は、フェイト・テスタロッサの母親、プレシア・テスタロッサのようですね。詳しいデータは今そちらに送っています』 「助かるわ」 テスタロッサの名から、プレシアまでは割り出していたのだが、情報のガードが堅く少し苦戦していたのだ。 送られてきたデータにざっと目を通し、リンディは顔を険しくした。 「この名前……」 『はい。プレシアの娘は一人だけ。名はアリシアで、フェイトじゃありません。しかもすでに鬼籍に入っています』 相馬が職場で知り合ったフェイトは、素直ないい子だった。いずれ彼女が真実を知ることになるかと思うと、相馬は陰鬱になる。 「どういうこと?」 『おそらくこれが関係しているでしょうね』 次のデータは、プロジェクト・フェイトと名付けられた人造生命の研究だった。 目を通し、リンディも相馬と同じく陰鬱になる。 「後味の悪い事件になりそうね」 辛い現実と相対する覚悟はできている。しかし、少しでもよい未来を選ぶ為に、リンディはこの仕事を選んだ。 この事件を悲劇では終わらせないと、リンディは固く誓っていた。 アースラであてがわれた部屋にて、佐藤は煙草を吸っていた。 「この事件、いつになったら終わるんだろうな」 佐藤の能力は、直前か十年後のことしか予知できない。しかも十年後の予知は、なのはたちだけ。どうやら魔力資質が高い者ほど、遠くまで予知できるようだ。 だから、佐藤にもこの事件の結末はわからない。肝心なところで役に立たない能力だ。 その時、扉がノックされた。佐藤が促すと、人間の姿になったユーノが入ってくる。 「夜分遅くにすいません、シュガー」 「そのネタ、まだ覚えてたのか。変身してない時は佐藤でいい。どうでもいいが、お子様は寝る時間だぞ」 「大事な話があるんです」 ユーノは佐藤の前の椅子に腰かける。佐藤は煙草の火をもみ消した。 「気にしないでください。僕の部族でも煙草を吸う人はいましたから慣れっこです」 「さすがに本当のお子様の前では吸えん」 「優しいんですね」 ユーノに笑いかけられ、佐藤は苦虫をかみつぶしたような顔になる。 「それで、話ってのは?」 「なのはのことです」 佐藤とぽぷらが初めて変身した時、佐藤はなのはが悪魔と呼ばれる女になると予言した。ぽぷらもなのはもすっかり忘れているようだが、ユーノはそれがずっと気がかりだったのだ。 「佐藤さんが予知した未来、詳しく教えてくれませんか?」 ユーノも最初は佐藤の勘違いだろうと思っていた。しかし、これまでの戦闘で、佐藤の予知は、確実だと証明された。そして、それは回避可能な未来なのだということも。 「……お前と高町妹の仲は、十年後もまったく進展ないままだ」 ユーノが派手にずっこける。 「佐藤さん、そういう話をしてるんじゃ……。しかも、まだ高町妹なんですね」 「興味ないか?」 「ありますけど……」 ユーノが少し赤くなっている。ユーノがなのはを好きなことなど、片思い歴の長い佐藤には丸わかりだ。 「まあ、それはさておき」 佐藤はどう説明したものか、顎に手を当てて考え込む。 「十年後の高町妹は、キャリアウーマンと言うか、仕事だけが生きがいの生粋の軍人って感じだったな。多分時空管理局に所属してる」 「やっぱり」 偶然出会っただけのユーノを助け、敵であるフェイトと友達になっていることからも明らかなように、なのはは困っている人を放っておけない。 天才魔道師であるなのはが、時空管理局で仕事をすれば、より多くの人を助けられる。将来的になのはが時空管理局に所属するのは当然の帰結だった。 「なのはは幸せそうでしたか?」 ユーノは不安そうに訊いた。 「お前たちの切り札、スターライトブレイカーだったな」 「そうですけど?」 それは最近ようやく完成した、なのはが決戦様に用意した魔法だ。同じくぽぷらも新技を用意している。 魔力を集束していく様が流星に似ていることから、スターライト(星の光)と名付けられた。何故ここでその技名が出てくるのか、ユーノにはさっぱりわからない。 「何というか、高町妹にぴったりの名前だな」 流星には、願い事を叶える力があると伝えられている。なのははまさにそれだった。 誰かの願いを叶える為に、その身を炎に焼かれながら飛び続ける流星。一瞬で燃え尽きてしまう儚くも美しい輝き。 「放っておいたら、どこまでも遠くに行ってしまいそうな、危うい感じだった」 「なのはが死ぬようなことがあれば、僕のせいです。僕がなのはを魔法使いなんかにしたから」 「あいつはお前に感謝してるんじゃないか? 望む将来が選べたって」 「でも……」 「責任を感じるんなら、お前があいつを引き止めてやればいい。さっき言ったろ。十年後、お前たちの仲は進展していないって。恋人でもいれば、あいつもそう無茶をしないかもしれん」 「佐藤さん…………耳まで真っ赤ですよ?」 「やかましい!」 柄にもなく臭いことを言ったと、佐藤は後悔していた。 ユーノの顔にわずかだが笑顔が戻ってくる。 「そうですね。僕、少し頑張ってみます。事件が解決したら、なのはに告白します」 「高町妹は強敵だぞ。せいぜい頑張れ」 八千代と同じレベルで恋愛には鈍そうだ。振り向かせるのは並大抵ではない。 「ありがとうございます。おかげで元気が出ました。それじゃあ、お休みなさい」 ユーノが退室するのを見届け、佐藤は煙草に火をつける。 他人の恋愛を応援するなど佐藤の柄ではないし、そもそも四年間も行動を起こしていない自分に何かを言う資格などないのだ。 「俺も頑張らないとな」 考えるだけで胃が痛くなる。佐藤はもう一本煙草をくわえた。 「あ、そうだ」 ユーノが慌てて部屋に戻ってきた。 「応援してくれたお礼に、佐藤さんに一つ教えてあげます」 ユーノは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。 「佐藤さんは種島さんが発動させたジュエルシードに割り込みましたよね。普通そんなことできません。それができたってことは、佐藤さんが種島さんを助けたいってすごく強く願った証拠なんです」 「つまり?」 「つまり佐藤さんにとって、種島さんは自分の命を犠牲にしても構わないと思えるほど、大事な人ってことです」 佐藤が盛大にむせる。 「それじゃあ、佐藤さんも頑張ってください」 「好き放題言って行きやがって」 佐藤はユーノが出て行った扉を忌々しげに睨みつける。心の中では、ユーノが投じた一石が静かに波紋を起こしていた。 翌日、フェイトたちは家を出ると、海へと一直線に向かった。空は雲に包まれ薄暗い。海も波が荒く不吉な印象を醸し出している。 ワグナリアには、小鳥遊の代わりに妹のなずなに行ってもらった。とにかく飲み込みが早く要領がいいので、仕事振りも身長同様、小鳥遊に比肩する。 その成長の早さが、ミニコンの小鳥遊の悩みの種になってしまっているのだが。 「宗太さん。お願いします」 「わかった。やってみるよ」 小鳥遊はフェイトに事前に説明されたとおり、ジュエルシードに意識を集中させ、脳裏に好きな物を思い描いていく。 「子供……子犬……子猫……」 小鳥遊の欲望に反応して魔力がだんだん高まっていく。 バルディッシュに搭載されたジュエルシードが、小鳥遊の魔力に反応してカタカタと揺れ動く。フェイトは自分の考えが正しかったと、確信する。 ジュエルシードは最初、海鳴市周辺にばらまかれたはずだった。それがいつの間にか北海道へ移動していた。北海道にジュエルシードを引き寄せる何かがあるのだ。 これまで集めたジュエルシードの場所を確認すると、一直線にワグナリアを目指しているようだった。 決定的だったのは、伊波が拾ったジュエルシードだ。あれだけ店の近くにあって、フェイトが入店時気づかないはずがない。あれはフェイトの後からやってきたのだ。 ワグナリアでジュエルシードを引き寄せる存在など一つしか思いつかない。どうやらジュエルシードの波長と、小鳥遊の欲望の波動は非常に相性が良いようだ。名づけるなら、ジュエルシードの申し子と言ったところか。 「ミジンコー!」 小鳥遊の魔力がさらに高まる。呼応するように、海からジュエルシードが現れ、徐々に数を増やしていく。 アルフが出現した七個のジュエルシードを拾い集める。 「宗太さん、お疲れさま」 フェイトに差し出されたハンカチで、小鳥遊は額の汗を拭う。ジュエルシードを引き寄せる作業は、小鳥遊にかなりの消耗を強いていた。 「これで全部か」 しかし、フェイトの表情は暗かった。ジュエルシードの回収を終えた以上、残された道は一つしかない。 「来た」 すぐ近くで空間転移の反応。なのは、ユーノ、ぽぷら、佐藤が現れる。 「フェイトちゃん、ワグナリアでの時間、楽しかったね」 懐かしむようになのはが言った。 「うん。楽しかった」 短い間だったが、フェイトにしてみれば、久しぶりの心穏やかな日々だった。でも、いつまでも優しい時間に浸ってはいられない。約束を果たす時が来たのだ。 フェイトとなのはが空中に十九個のジュエルシードを浮遊させる。小鳥遊とぽぷらの分を合わせて二十一個。全てのジュエルシードがここに集結した。 「これが終わらないと、私たちは先に進めない」 「うん。だから、決着をつけよう。それが最初からの約束だから」 なのはがレイジングハートを、フェイトがバルディッシュを構える。この戦いに勝った方が全てのジュエルシードを手に入れる。 決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。 目次へ 次へ
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夏休みに入る直前、高町恭也、美由希、なのはの三兄妹は、自宅の居間で父親の士朗に頼みごとをされていた。 「北海道に行けだって?」 大学一年生の黒髪の青年、恭也は困惑する。夏休みは恋人の月村忍とデートの予定がすでに入っていたのだ。 「急な話で悪いんだが、実は昔の知り合いがファミレスの店長をやっていてな。今度の夏休みに人手が足りなさそうなんで貸してくれと……」 心底申し訳なさそうに、士朗は顔の前で両手を合わせる。 「翠屋はいいの?」 三つ編みに眼鏡をかけた高校二年生の女の子、美由紀が首を傾げる。高町家は商店街で喫茶店を経営している。忙しいのはこちらも同じはずだが。 「ああ。家の心配はしなくていい。バイトの子たちもいるから、どうにかなるだろう。向こうも別にフルにシフトが入ってるわけじゃないから、お前たちはついでに北海道旅行を楽しんできなさい」 「私も行っていいの? ユーノ君は?」 小学三年生の栗色の髪をツインテールにした少女、なのはが顔を期待に輝かせる。 「ああ、もちろんいいぞ」 「やったね、ユーノ君」 なのはが足元にいるフェレットに声をかける。 「でも、子どもたちだけで旅行なんて」 母親の桃子が苦言を呈する。 「恭也と美由希はもう大人だし、なのはだってしっかりしてるから平気だよ」 「父さん……もしかして母さんと二人っきりになりたかっただけじゃ?」 「そ、そんなことはないぞ」 士朗が慌てふためきながら弁解する。どうやら図星のようだ。 (よかったね、ユーノ君) (うん。残りのジュエルシードが北海道にあるってわかって、困ってたからね。まさに渡りに船だよ) なのはが他の人に聞かれないよう念話をユーノに送る。フェレットの姿をしてるが、ユーノの正体は魔法世界の住人だ。 なのははユーノとともに、危険な魔法のアイテム、ジュエルシードを人知れず封印している魔法少女なのだ。現在、なのはが持っているジュエルシードは三個。後十八個集めなければいけない。 こうして、高町兄妹は北海道へと旅立っていった。 北海道に着くなり、高町兄妹は目的の店へと向かった。 北海道某所、ファミレス、ワグナリア。 「店長の白藤杏子だ。よろしくな」 事務机に座った二十代後半の女性が告げる。髪を肩口で切りそろえたクールな雰囲気の女性だ。 「よろしくお願いします」 三兄妹が元気よく挨拶する。恭也は白いシャツに蝶ネクタイと黒いズボン、美由希となのはは白いシャツに黒いリボンとミニスカートをはき、エプロンをつけている。これがこの店のフロアの制服だ。 なのはは別に手伝わなくてもよかったのだが、本人の強い希望で、社会見学の名目で許可された。 ちなみに動物は入店禁止なため、ユーノは外で待機している。 夏休みに入り、バイトやパートたちがこぞって旅行や遊びに出かけてしまったのが、ワグナリアの人手不足の原因だった。 「ところで、宿泊先も白藤店長が用意してくれるという話でしたが、それなら別のバイトを雇った方が安上がりだったのでは?」 恭也が質問した。宿泊費にバイト代もちゃんと払う約束になっている。 「それなら、大丈夫だ。ほれ」 杏子は恭也に宿泊先の地図と鍵を渡す。 「ここのマネージャー音尾は、行方不明の妻を捜して旅に出ていてな。当分家に帰る予定はないから、好きに使っていいそうだ」 「………………」 つまりこのファミレスは責任者不在ということか。赤の他人を自分の家に泊めるというのも不用心な話だが、マネージャーは長い旅暮らしの為、貴重品はすべて持ち歩いているらしい。 「杏子さんはお父さんとどうやって知り合ったんですか?」 続いて、なのはが質問した。住んでいる場所も年齢も違う士朗と杏子の接点が、どうしてもわからない。 「ん? 私が高校生の頃、戦ったことがあるんだ」 「お父さんと?」 父親の士朗は、現在は引退しているが、小太刀二刀御神流の達人でかなりの実力者だ。恭也と美由希も幼少より習っているが、まだ父親の域には達していない。 「じゃあ、杏子さんも強いんですね」 「さあな。だが、お前の親父は強かったぞ。後にも先にも、私の釘バットを真っ二つにしたのは、あの男一人だ」 「釘バット?」 なのはには聞き慣れない単語だった。てっきり杏子も剣術を学んでいると思ったのだが。 「知らないのか? バットに……」 「白藤店長、それ以上の説明はいりません。なのはも気にしないでいいからな」 恭也が引きつった顔で、なのはを杏子から遠ざける。どうやら杏子は昔ヤンキーだったようだ。 「それと、最初に言っとくが、仕事に関して私は一切助言しないので、そのつもりで」 「それは見て覚えろと?」 随分厳しいファミレスだと、恭也と美由希は驚く。 「いや……あんまり仕事しないから知らないんだ、私」 「……恭ちゃん。この店、大丈夫かな?」 「さあ」 恭也も美由希もいきなり不安を感じていた。 「なので、仕事に関しては、こいつに訊いてくれ」 杏子に呼ばれ、ボリュームたっぷりの髪をポニーテールにした元気な女の子が事務室に入ってくる。どう見ても小学生くらいだ。 「私、種島ぽぷら。よろしくね」 「よろしくね、ぽぷらちゃん」 近い年齢の子がいると知って、なのはが喜んでぽぷらの手を取る。 どうして小学生が働いているのか不思議に思ったが、尋ねる前に杏子とぽぷらが話を先に進めてしまう。 「では、種島。他のメンバーの紹介をしてやってくれ」 「はーい」 恭也たちはぽぷらに連れられて、仕事場へと向かった。 フロアからは客席が一望できる。お昼時を過ぎて暇な時間帯らしく、客席には人がまばらにしかいない。その中を一人の制服の女性が動き回っていた。 長い髪に優しげな笑顔の美人だった。女性はてきぱきと慣れた様子で仕事を片づけていく。 その姿を見て、恭也たちは冷や汗を流す。 「ねえ、恭ちゃん。あれ、刀だよね?」 「ああ、間違いない」 女性の腰には日本刀が吊り下げられていた。それが歩くたびに、がしゃがしゃと音を立てている。 客たちの反応は二種類だった。まったく刀を気にしていない者と、不安そうに刀から目を離せない者。一人の勇気ある若者が質問しようとしたが、女性の笑顔に結局何も言えなくなってしまう。 「あれがフロアチーフの轟八千代さん」 「……あの人がチーフなんだ」 仕事を終えた八千代が恭也たちの方にやってくる。 「あら、あなたたちが新人さんね。杏子さんから話は聞いてるわ。これからよろしくね」 「よろしくお願いします」 三人並んで頭を下げる。すると、否応なく刀が目に入る。 「あの……どうしてチーフは帯刀しているんですか?」 「実家が刃物店なのよ」 答えになっていないと思ったが、口には出さなかった。 「ちょっと見せてもらっていいですか?」 興味津々な様子で、美由希が刀を指差す。美由希は刀剣マニアだった。 「お、おい、美由希」 「ええ、いいわよ」 恭也が止めようとするが、八千代は気にせず刀を美由紀に渡す。 美由希は刀身に息や唾がかからないようハンカチを口にくわえる。本当は懐紙でやるのだが、ないので代用している。慎重な手つきで、刀を鞘から抜く。摸造刀ではなく、ちゃんと刃のついた真剣だった。 美由希はうっとりとした様子で刀身を眺める。実戦を想定した質実剛健な造りで、観賞用の刀にはない迫力がある。 美由希の顔が少し引きつった。この刀、明かに使用した形跡がある。それも一度や二度ではない。刀を鞘にしまい八千代に返す。 「あの、八千代さん。八千代さんも剣術を習ってるんですよね?」 「いいえ」 「じゃあ……」 いつ使ったのか訊こうとするが、八千代は邪気のない満面の笑みを浮かべている。 「いえ、何でもありません」 先ほどの客と同様、結局美由希も何も言えなかった。 そして、恭也は、 「……あれがありなら、家でも試してみるか? 常に帯刀しているだけでも修行になるし」 新たな修行法を真剣に模索中だった。 「八千代、ラーメンできたぞ」 「はーい」 真っ白なコックの服を着た金髪の男がキッチンから顔を出す。長身で顔もいいが、どうにもヤンキーっぽい。かすかに香る煙草の匂いからヘビースモーカーであることも窺える。 「この人がキッチン担当の佐藤潤さん」 「よろしく」 佐藤は不愛想に挨拶する。こちらに興味がないのか、それきり厨房に戻ってしまう。 「ちょっと怖い感じの人だね」 美由希が言うと、ぽぷらは首を振った。 「そんなことないよ。そりゃ、ちょっと意地悪だけど、佐藤さん優しいよ」 ぽぷらは背も低いし力もないので、仕事の大半を佐藤に手伝ってもらっている。仕事を頼む時、佐藤は嫌な顔一つしない。 「……そうなんだ」 美由希はコップが置かれている棚を見上げた。確かにぽぷらの背では、踏み台くらい持ってこないと届かないだろう。 「ぽぷらちゃんは、どうして小学生なのにバイトしてるの? お手伝い?」 「小学生じゃないよ! 私、高校二年生だよ!」 「嘘、私と同い年!?」 衝撃の告白に美由希が驚く。 身長は、なのはより少し高いくらい。なのはと同い年と言われた方がよほど信じられる。しかし、よく見ると身長とは不釣り合いに、胸がやけに膨らんでいる。 美由希は自分の胸と比べてみて、 「ごふっ!」 取り返しのつかないダメージを受けた。 「おい、どうした?」 「お姉ちゃん、しっかりして」 「大丈夫ですか?」 倒れかける美由希を、恭也、なのは、ぽぷらの三人が支える。その時、美由希の腕がぽぷらの胸に当たった。腕に返ってくる柔らかい感触。それがとどめだった。 (……あ、本物だ) 美由希の意識は、深い闇の底へと沈んで行った。 休憩室の椅子を並べて簡易ベッドを作り、そこに美由希を寝かせた。 恭也は杏子に向かって頭を下げる。 「すいません、白藤店長。いきなりご迷惑をおかけして」 「まあ、今日は制服合わせと顔見せだけのつもりだったから問題ないが、高町姉は何か持病でも?」 「いえ、健康そのもののはずなんですが……長旅で疲れたのかな」 恭也としても首を傾げるしかない。 「ん……」 そこで美由希が目を覚ました。 「大丈夫か?」 「高町姉。体調悪いなら、無理しなくていいぞ」 「大丈夫です。ご心配おかけしました」 美由希は頭を振って立ち上る。あの身長の相手に負けたのはショックだったが、もう気持ちの整理はついた。それにスタイルならば、杏子の方が圧倒的だ。 「私、お水貰ってきます」 なのはが厨房へと走っていく。 「うおおおおおおおおお!」 その後すぐ、謎の雄たけびが響いてきた。 「なのは!?」 恭也は血相を変えて、なのはを追いかける。 「あはははははは! か-わーいーいー!」 眼鏡をかけた男が、左脇にユーノを抱えて、右手でなのはの頭を撫でまわしていた。 至福の表情を浮かべて撫でまわしてくる男に、なのははどう対処しようか困っていた。 男が変態であると恭也は即断定する。 「妹から離れろ!」 変態を取り押さえようと腕を伸ばす。しかし、変態は逆に恭也の腕をつかみ返し、関節を極めようとしてくる。どうやら変態は、護身術を習っているようだった。しかもかなりの熟練者だ。 恭也は必死に腕を振り払い、距離を取った。 御神流は、小太刀だけでなくあらゆる状況を想定した鍛錬を行っている。格闘技も下手なプロより強い自信があるが、相手は素手に特化した達人だ。負けはしないが、少々手こずるかもしれない。 「いきなり何するんですか!」 「黙れ、変態!」 変態の抗議に、恭也は怒鳴り返す。 「やめなさい!」 甲高い声が二人を仲裁する。ぽぷらが息を切らせて、二人の間に割って入る。少し遅れて美由希もやってくる。 「もう駄目だよ、かたなし君。いくらちっちゃい子がいるからって、いきなり撫でまわしたりしたら」 「すいません。あまりの感激に、つい我を忘れて……」 ぽぷらにたしなめられ、変態が素直に謝る。 「高町さんも駄目だよ。同じバイト仲間に暴力振るったら」 「バイト仲間? こいつが?」 「初めまして。小鳥遊(たかなし)宗太、高校一年生です」 変態が礼儀正しく一礼する。 「“しょうちょうゆう”とか、“ことりあそび”だとか言われますが、タカナシです!」 珍しい名字に苦労しているのか、やたら力説してくる。 「高町恭也だ」 「高町美由希です。名字だと兄と被るので、気軽に名前で呼んで下さい」 先ほどのやり取りを見ていない美由希が、笑顔で小鳥遊に挨拶する。 「……年増か」 二人を見て、小鳥遊が吐き捨てるように呟く。 美由希のこめかみに青筋が浮かんだ。 「八千代さーん。もう一度刀貸してもらっていいですかー?」 「落ち着け、美由希!」 「離して、恭ちゃん! 女には殺らなきゃいけない時があるの!」 いくら小鳥遊が強くても、刀を持った美由希なら一刀両断できる。恭也が美由紀を押さえている間に、小鳥遊は更衣室へと行ってしまう。 「ごめんなさい。かたなし君は重度のミニコンなんです」 ぽぷらが申し訳なさそうに謝る。ちなみにぽぷらはどうしてもタカナシと発音できず、かたなしと呼んでしまう。 「ミニコン?」 恭也も美由希もロリコンしか知らない。 「病的にちっちゃいものが大好きで、十二歳以上の人を年増扱いするんです」 「それはロリコンと違うのか?」 「いえ、ちっちゃいものが純粋に好きなだけで、恋愛感情とかは特にないみたいで……」 子供や小動物だけでなく、虫や微生物まで小鳥遊はこよなく愛する。 「ふーん。世の中にはいろんな人がいるんだね」 ユーノを取り戻したなのはが感心したように頷く。 「白藤店長」 「どうした、高町兄妹」 恭也に呼ばれ、杏子が歩いてくる。 「すいません。今日はもう帰っていいですか? 他のメンバーはまた後日と言うことで」 「? ああ、別に構わんぞ。どれ、高町姉の具合も悪そうだし、私が車で送って行ってやろう」 「ありがとうございます」 口で礼を言いながらも、恭也の顔は引きつっていた。こんな変態の巣窟に、なのはを一秒たりとも置いておきたくなかった。 目次へ 次へ
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朝、自宅の前で、小鳥遊はフェイトたちと合流する。 フェイトの手には甘いお菓子の入った箱が握られている。母親へのお土産だ。 「母さん、喜んでくれるかな?」 「心配いらないよ。この短期間に四つもジュエルシードを集めたんだ。あの人だって、きっと褒めてくれるさ」 フェイトたちは会話をしながら、人気のない空き地に移動する。 「フェイトちゃんのお母さんって、どこに住んでるの?」 「次元の向こうさ」 小鳥遊の質問にアルフが答えると同時に、フェイトが転送魔法を発動させる。小鳥遊たちは次元の彼方へと転送された。 高次元領域、時の庭園。 小鳥遊とアルフを扉の外に待たせ、フェイトは一人母親と会う。 「これがジュエルシードです」 フェイトがジュエルシードを三つ空中に浮遊させる。 「小鳥遊さんの分を入れて、全部で四つ集まりました」 「……確かにジュエルシードね」 プレシアは椅子に座ったまま、ジュエルシードを無感動な目で眺めている。 「でも、フェイト。私は何と言ったかしら?」 「……すべてのジュエルシードを集めるようにと」 「これだけの時間をかけて、協力者までいながら、たったの四つしか集められないの?」 口調は静かだが、不穏な気配が漂っている。フェイトは怯えたように身をすくめる。 プレシアはフェイトの持つ箱に目を向けた。 「それは何?」 「か、母さんへのお土産」 「……そんな暇があるなら、ジュエルシードを探してきなさい!」 プレシアが声を荒げ、手にした鞭でフェイトを打つ。 焼けつくような痛みに、フェイトは悲鳴を上げて倒れる。 「母さんには時間がないって言ったでしょう。残念だわ、フェイト。私はあなたにお仕置きしないといけない」 プレシアが再び鞭を振り上げる。フェイトは思わず目をつぶった。 室内に響き渡る鞭の音。しかし、予期した痛みは襲ってこなかった。 恐る恐る目を開けると、大きな背中がフェイトの前にあった。 「大丈夫、フェイトちゃん?」 小鳥遊が優しく声をかける。中から鞭の音が聞こえるなり、小鳥遊は部屋へと踏み込み、フェイトをかばったのだ。 「は、はい」 「邪魔をするな!」 プレシアの鞭が小鳥遊の頬を浅く切り裂く。それでも小鳥遊は怯まず、相手を睨みつける。 「おい、年増」 「と……!」 どすをきかせた小鳥遊に、プレシアは鼻白む。 「お前、今自分の娘に何をした?」 「あなたが小鳥遊ね。私たちの問題に口出ししないでちょうだい」 「ふざけるな!」 ジュエルシードが輝き、小鳥遊は魔王モードへと変身する。 小鳥遊は年増を嫌っている。しかし、この世で最も憎悪するのは、ちっちゃいものを虐げ傷つける存在だ。 「いいか、ちっちゃいものは可愛いんだ! ちっちゃいものは正義なんだ! それをぶつ権利なんて誰にも……特に、お前のような年増にはない!」 「刃向う気?」 プレシアも鞭を杖へと持ちかえ戦闘態勢を取る。 一触即発の雰囲気の中で、フェイトが小鳥遊のマントの裾をつかんだ。 「やめて、小鳥遊さん」 「でも」 「お願い。ジュエルシードを集められなかった、私が悪いんです」 フェイトに懇願され、小鳥遊は渋々引き下がる。プレシアも杖を収め、とりあえず戦闘は回避された。 「ジュエルシードを集めればいいんだな?」 「ええ、そうよ」 「待っていろ。すぐに集めてきてやる」 小鳥遊は吐き捨てるように言うと、フェイトを抱き上げ、時の庭園を後にした。 隠れ家で、アルフはフェイトの傷の手当てをする。 「やるじゃないか、小鳥遊。まさか、フェイトの為にあの鬼婆に挑むとはね」 今回の一件で、アルフの小鳥遊の評価はかなり上がっていた。 小鳥遊はアルフの賛辞も聞かずに、室内を調べていた。整理整頓されているが生活感がなく、どこか寂しい。 「本当は優しい母さんなんです。ジュエルシードを全部集めれば、きっと元の優しい母さんに戻ってくれるはず」 フェイトが小鳥遊に一枚の写真を渡す。そこには、優しい微笑みを浮かべたプレシアとフェイトが写っていた。絵に描いたような幸せな親子の図だ。 今日会ったプレシアと写真の人物が同じとは、小鳥遊にはとても信じられなかった。思わず他人の空似ではないかと疑ってしまう。アルフを窺うが、黙って首を横に振る。どうやらアルフも昔のプレシアを知らないらしい。 「アルフ。小鳥遊さんにも手当てを」 「いや。俺はこれでいい」 小鳥遊の頬には、おざなりに絆創膏が張られている。この程度の怪我など慣れっこだ。時の庭園から戻ってからというもの、小鳥遊は厳しい表情を崩していない。 冷蔵庫を開くと、中には必要最低限の食材しか入っていなかった。 「普段、食事はどうしているんですか?」 「それは……」 アルフは目を伏せる。こちらに来てから、フェイトはあまり食べていない。 「アルフさんは?」 「私は、ほら、これがあるから」 出しぱっなしになっていたドッグフードの箱を掲げる。 小鳥遊は拳を握りしめた。フェイトがどんな暮らしをしているか、考えもしなかった自分に腹が立つ。母親がいると聞いて、てっきり二人で暮らしているのだろうと思い込んでいた。 小鳥遊はソファーに横たわるフェイトの手を取る。 「フェイトちゃん、俺の家に来ない?」 「えっ?」 「ちょっと、いや、かなり騒がしいけど、こんなところにいるよりずっといい。部屋は余ってるし、食事も俺が用意するから」 「でも、迷惑なんじゃ?」 「気にしないで」 「フェイト。そうしなよ」 アルフもフェイトの体調はずっと気がかりだったのだ。小鳥遊が作るなら、フェイトも食べないわけにはいかないだろう。少々危険な気がしないでもないが、恋人になるつもりはないという小鳥遊の宣言を信じることにする。 小鳥遊は腕時計に目を落とす。帰って昼飯を作るには丁度いい時間だ。 「いいよね?」 「わかりました」 フェイトはおずおずと頷いた。 その頃、一人の女子高生がワグナリアの従業員用通路を通っていた。 赤縁の眼鏡に、前髪の左側が激しくカールして渦を巻いている。フロアスタッフの松本麻耶だ。 名前も普通。容姿も普通。仕事も普通。普通を人生の至上の目的とし、山も谷もない平坦な一生を送ることを夢見ている。 「こんにちは。種島さん」 笑顔で休憩室にいたぽぷらに挨拶する。 「こんにちは。今日はご機嫌だね、松本さん」 「まあね」 常日頃、松本の機嫌はあまり良くない。ワグナリアは変人の巣窟で、松本は同類扱いされないよう、バイト仲間からなるべく距離を置いているのが原因だ。 しかし、この前、初めて高町兄妹と一緒に仕事をしたのだが、とても普通の人たちだった。 (ようやくワグナリアに普通の人たちが。これをきっかけに、もっと普通の人たちがバイトを始めてくれれば) 松本は鼻歌を歌いながら、更衣室でウェイトレスの制服に着替える。 ただし、下の妹だけは別だ。 少し大人び過ぎているのも気になるが、それ以上に松本はなのはを警戒していた。これまでとは別種の普通じゃない気配がする。一番近づいてはならない相手だと、松本の直感が告げていた。 いつもよりも軽い足取りで、仕事場へと向かう。 「あ、松本さん」 「高町さん……!?」 松本が声のした方を見て絶句する。 恭也が床に手をついて、棚の下に落ちたフォークを拾っていた。服が汚れないように、袖をまくっていたのだが、腕に無数の刀傷があった。 恭也は気まずそうに袖を直すと、すたすたと歩いて行ってしまう。 (刀傷……。いいえ、剣術を習ってるなら、それくらい普通よね?) 松本は自分を無理やり納得させながらフロアに出た。そこでは美由希が、うっとりと八千代の刀を眺めていた。 「美由希ちゃんは本当に刀が好きねぇ」 「はい!」 刀を鞘にしまいながら、美由希が嬉しそうに頷く。 「あ、松本さん、こんにちは」 松本はふるふると全身を震わせていた。 「松本さん?」 美由希がいぶかしげに、松本の顔を覗き込む。 「この裏切り者ー!」 「ええっ!?」 突然罵倒されて、美由希が目を白黒させる。 刀剣マニアなど、絶対に普通の女子高生の趣味ではない。 松本も普通にこだわり過ぎる変人なのだが、本人はまったく認めようとはしなかった。 八千代が松本をなだめている横で、伊波がパフェの作り方をなのはに教えていた。 「こうやって、アイスとフルーツを……後は生クリームで飾り付けをして完成。ね、簡単でしょ?」 「はーい」 なのはは教えられた通りにてきぱきとパフェを作っていく。 「すごい。一度見ただけなのに」 生クリームの飾り付けに少々コツがいるのだが、なのはは完璧に仕上げていた。 「家でお母さんに教えてもらったことがあるから」 「そっか。高町さんのお母さん、パティシエだったっけ」 伊波の作ったパフェはすでに杏子が食べ始めている。なのはのパフェもすぐに杏子の胃の中に消えていくだろう。 「杏子さん。言って下されば、私がお作りしますのに」 八千代が少しむくれて言った。 「んー? ところで、八千代。高町兄妹は使えるか?」 「はい。もう教えることがないくらいです」 普段から翠屋を手伝っているだけあって、恭也も美由希もすでに仕事をほとんど覚えてしまった。 伊波は男性恐怖症の為、女性の接客しか、つまり半分の仕事しかできない。新人に追い抜かれてしまったようで、肩身が狭い。 そこに恭也が通りがかった。 「きゃあああああああ!」 伊波の拳が恭也の顔面に迫る。恭也は横から伊波の腕を押し、軌道をそらせる。拳が顔の横を通過し、ワグナリアの壁を粉砕する。 伊波の二発目が来る前に、恭也は伊波の射程圏内から離脱する。 「こら、伊波。店を壊すな」 「ごめんなさい!」 恭也と杏子に、伊波は謝る。 「お兄ちゃん!」 「心配するな。怪我はしてないから」 駆け寄ってくるなのはを安心させるように、恭也は笑顔を作る。なるべく接近しないようにしているのだが、伊波は気配が薄く、どうしても日に何度かは接触してしまう。 「山田、つまずきました!」 突如、頭上から水の入ったバケツが降ってくる。 「!」 恭也の視界から色が消え、バケツの速度がスローモーションになる。次の瞬間、恭也はなのはを抱きかかえて、水のかからない場所まで移動していた。 「はっ! 高町さんが消えました!」 バケツを飛ばした犯人、山田が驚く。 「恭ちゃん、神速使ったでしょ」 「なのはを守るには、これしかなかったんだ」 恭也は乱れた呼吸を整えながら言った。 神速は御神流の奥義の一つで、瞬間的に己の知覚力を極限まで高め、高速移動を可能にする。山田の目には恭也が消えたようにしか見えないだろう。 「やっぱり普通じゃないしー!」 遠くから松本の嘆きが響いてきた。 「ひょっとして父さんは、修行の為にここに送り込んだんだろうか?」 恭也は最近、真剣に考えてしまう。どうもワグナリアで働きだしてから、実戦の勘が磨かれている気がするのだ。 昼食時、食卓に小鳥遊姉妹が集合する。小鳥遊姉妹は四人とも背が高く、揃うとなかなかの迫力がある。 気圧されないよう活を入れながら、小鳥遊は食卓の前に立つ。 「食事の前にちょっと話があるんだけど」 小鳥遊が手招きすると、アルフとフェイトが部屋に入ってくる。 「こちらは、アルフ・テスタロッサさんと、フェイト・テスタロッサちゃん」 ややこしいので、二人には姉妹の振りをしてもらうことにした。 「今日からこの人たちを家に泊めたいんだけ……ど!」 小鳥遊が言い終わる前に、顔面に六法全書が炸裂する。 「まず理由を言え。話はそれからだ」 六法全書を投げたのは、長女の小鳥遊一枝だ。年は三十一歳で、眼鏡をかけて口元にはほくろがある。職業は弁護士。ちなみにバツイチだ。 小鳥遊が痛みに呻きながら、話を続ける。 「ちょっと問題があって、彼女たちの家の改修工事をしなきゃならなくなったんだ。その工事が終わるまでの間、泊めてあげてくれないかな?」 ここに来るまでの間に、必死に考えた嘘を口にする。平静を装っているが、嘘がばれないかと内心冷や冷やしている。 「ご両親は?」 「母親は仕事で海外に。当分帰って来れそうにないって」 これは嘘ではない。ただし海は海でも、次元の海の外側だが。 「私は賛成。アルフちゃん、仲良くしよう」 ビールを片手に、三女、梢が朗らかに手を上げる。 (梢姉さん、ナイス!) 梢がいち早く賛成してくれたことで、場のムードが一気に賛成側に傾く。 「……私も。恋の話とか聞かせてもらえると……嬉しい」 黒ずくめの女性が掠れた声で喋る。次女、泉だ。二十八歳で、職業は恋愛小説家。常にネタに飢えて苦しんでいる。滅多に部屋から出ずに原稿を書いている為、運動能力は極限まで低く、歩行すらままならず這って移動する。 「お泊りかぁ~。楽しそうだね。フェイトさん、年はいくつ?」 最後の一人、髪を肩口で切りそろえた女の子が楽しげに質問した。 「九歳です」 「そっか。私は妹のなずな。十二歳、小学六年生です」 「えっ?」 フェイトは驚いた。なずなは小鳥遊よりわずかに背が低いだけで、ほとんど変わらない。てっきりなずなも小鳥遊の姉だと思っていた。 「ねえ、アルフ。私も三年したら、あんな風になれるのかな?」 「た、たぶんね」 絶対に無理だと思ったが、アルフは言えなかった。夢を持つのは人の自由だ。 「工事期間はどれぐらいだ?」 「長くても一カ月はかからないんじゃないかと」 「はっきりしないな。業者を教えろ。私が直接聞いてやる」 一枝が立ち上って電話へと向かう。 「……ご迷惑でしたか?」 不機嫌な一枝に、フェイトはおずおずと言った。 「………………」 一枝はフェイトをじっと眺めると、いきなり両腕で抱きしめた。 「あの?」 「はっ! すまない、つい」 一枝は慌ててフェイトを解放する。 「ふっふ~。フェイトちゃん。可愛いよね~。こんな可愛い子のお願い断れるわけないんだから、ほら、一枝姉も無駄な抵抗はやめて許可しちゃいないよ」 梢が勝ち誇ったようにフェイトに頬ずりする。一枝は何かを堪えるように手で顔を押さえている。どうやら小鳥遊家は全員ミニコンらしい。 「……一カ月だな。それくらいなら、まあいいだろう」 一枝がどうにか体面を取り繕いつつ着席する。 「宗太! 早く食事にしろ!」 そして、小鳥遊に八つ当たりをするのだった。 各自の前にサンドイッチが乗った皿が置かれる。具は、卵やハムにチーズ、野菜など、栄養のバランスが考えられており、種類も豊富だ。 フェイトは別次元の人間なので、どんな食器が使えるか小鳥遊は知らない。素手でも食べられるようにサンドイッチにしたのだ。 箸やスプーンを使えるか、好き嫌いはないか、質問しようかとも思ったが、フェイトは遠慮して本当のことを答えなさそうだ。後でアルフに確認しておかないといけない。 「嫌いな物があったら無理しなくていいからね。好きな物だけ食べて」 「いえ、大丈夫です」 小鳥遊に返事をしながら、フェイトはイチゴジャムのたっぷり入ったサンドイッチを手に取る。 一口かじると、ジャムの風味が広がる。ミッドチルダのパンとジャムとは少し味が違う。咀嚼していると、フェイトの頬を一筋の涙が伝う。 「宗太ー!」 再び六法全書が空を舞い、宗太の顔面を直撃する。続いて梢が立ち上り、宗太の腕を捻じり上げる。 「こんな小さい子泣かすなんて、あんた何してんの!」 「フェイトを泣かす奴は、あたしが許さないよ!」 アルフも立ち上って小鳥遊の首を絞め上げる。 言い訳も反論もできず、小鳥遊が酸欠と苦痛に顔を青ざめさせる。 「ち、違うんです!」 フェイトが声を張り上げた。 「あんまり美味しくて、つい」 「そうだったのか。気に入ってもらえたようで何よりだ」 一枝がほっとしたように胸を撫で下ろす。 「大げさだな。ただジャムを塗っただけなのに」 小鳥遊がヒューヒューと妙な呼吸音をさせながら言った。 「いえ、本当です」 小鳥遊のサンドイッチは、急きょメニューを変えたせいか、そんなに手の込んだものはない。しかし、真心のこもった優しい味だった。 それが幼い頃に食べたプレシアの手料理を思い出させ、思わず涙ぐんでしまったのだ。 「ねえ、お兄ちゃん。後で宿題見て欲しいんだけど」 「バイト終わってからならいいよ」 「宗太、ビールおかわり」 「これ以上飲むな!」 「……アルフさん。恋愛経験って……ある?」 「う~ん。残念ながら」 泉は次にフェイトの黒い服を見た。 「……あなたとは……趣味が合いそうね」 「こら、お前たち。お客さんの前だぞ。はしゃぎ過ぎるな」 一枝が静かに注意する。 食事は、遠慮のない罵倒や怒声を交えながら賑やかに進む。少し変だが、家族の団欒がそこにはあった。 「うるさくてごめんね。美味しい?」 小鳥遊が尋ねる。フェイトには、その顔が一瞬、優しかったころの母の面影と重なって見えた。 「はい。とっても美味しいです」 小鳥遊にフェイトは笑顔で答える。心がほのかに温かい。こんなことは久しぶりだった。 ジュエルシードを集め終わったら、きっとまたプレシアともこんな時間が過ごせる。フェイトはそう信じて、こぼれ落ちそうになる涙を堪えていた。 昼食が終わり、小鳥遊はバイトへ行く準備を始めた。 フェイトとアルフはジュエルシード探索だ。アルフが家にいるので、梢も今日は家で飲むだろう。 「それじゃあ、行ってくるね。今日はそんなに遅くならないから」 見送りに来てくれたフェイトとアルフに小鳥遊は言った。 「あの小鳥遊さん」 フェイトがためらいがちに口を開く。 「何?」 「小鳥遊さんのこと……宗太さんって呼んでもいいですか?」 「もちろん。ここで小鳥遊さんだと紛らわしいからね」 小鳥遊が頭を撫でると、フェイトははにかむ。 「行ってきます」 「行ってらっしゃい……宗太さん」 小鳥遊を見送ると、アルフとフェイトはあてがわれた部屋に入る。そこは小鳥遊の両親の部屋だった。父親は早くに亡くなり、母親は仕事が忙しくて滅多に帰ってこないので、好きに使っていいと言われている。 どこかフェイトと似た境遇だ。だからこそ余計に同情したのかもしれない。 「アルフ」 「なんだい?」 「宗太さんって優しいね」 「まあ、悪い奴ではないんだろうけど」 優しいのはちっちゃいものに対してだけで、十二歳以上の女性にはとことん冷淡だ。 アルフはフェイトの様子を窺う。心なしか赤い顔をしている。 (まさか……) アルフの直感が警鐘を鳴らしていた。このまま行くとまずいことになるかもしれない。 いくら小鳥遊に付き合う気がなくても、もしフェイトの方から告白なんて事態になったら、どう転ぶかわからない。 (フェイトを変態の恋人になんてさせない。あたしが真人間に戻してみせる!) アルフはひそかに決意を固めていた。 目次へ 次へ
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プレメモ&プリコネパーティー2012 WORKING !!&ゆるゆりトークショー http //www.p-memories.com/node/117324 2012年4月21日(土):大阪、大阪マーチャンダイズ・マート Cホール 2012年6月9日(土):東京、サンシャイン文化会館 Aホール 共通開催時間:開場:14 30 開演:14 45 終了:16 00 2012年4月21日(土) ○WORKING !!トークショー 出演: 種島ぽぷら役 阿澄佳奈様 伊波まひる役 藤田咲様 山田葵役 広橋涼様 ○ゆるゆりトークショー 出演: 赤座あかり役 三上枝織様 歳納京子役 大坪由佳様 大阪会場抽選参加方法 「プレメモ&プリコネパーティー2012 in 大阪」ステージ抽選参加ご希望のお客様は、 開催日の朝10 30に開催会場(大阪マーチャンダイズ・マート Cホール)入口前にお集まりください。 当日はスタッフがご案内させていただきます。抽選時間にいらっしゃらない場合は抽選会に ご参加いただけませんのでご注意ください。 ※抽選の時点でご案内の出来るお席に余裕がある場合は、11 00の開場後、 グッズ販売コーナーにて先着で参加券をお渡しいたしますので、売場スタッフにお声がけください。 ※お一人様につき1回、参加抽選券をお引きいただき、その場で抽選発表となります。 当選された方は当選券に、ご覧頂く際の座席番号が明記されていますので、 注意事項等をご確認の上、開場時間になりましたらステージエリア入口までお集まりください。 ※近隣施設のご迷惑となりますので、徹夜・早朝のご来場はお断りしております。 お客様のご協力をお願い致します。 2012年6月9日(土) ○ゆるゆりトークショー 赤座あかり役 三上枝織様 歳納京子役 大坪由佳様 船見結衣役 津田美波様 吉川ちなつ役 大久保瑠美様 ○WORKING !!トークショー 伊波まひる役 藤田咲様 山田葵役 広橋涼様 東京会場抽選参加方法 未定
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高町兄妹がワグナリアを訪れた最初の日の夜、バイトを終えたぽぷらは、佐藤に車で家までも送ってもらっていた。家が近いので、たまに送ってもらうのだ。 「新しいバイトさん、いい人たちだったね」 「どうせ臨時だろ。まあ、仕事さえしてくれればどうでもいい」 「もう、佐藤さんは冷たいよ」 そうこうする内に、ぽぷらの家に着く。 「それじゃあ、佐藤さん。また明日ね」 「ああ」 ぽぷらは車から降りると、いきなり街灯の下にしゃがみこむ。 「どうした?」 「なんか落ちてる。宝石みたい」 菱形の物体が街灯の光を受け反射している。 「ガラスじゃないのか?」 興味をそそられて、佐藤も車を降りた。肩越しに覗きこむと、確かに青い宝石のような物が落ちている。 「落し物は交番に届けないとね」 ぽぷらが宝石を拾おうと手を伸ばす。その時、宝石が強烈な光を発した。 「危ない!」 佐藤がぽぷらをかばう。 膨大な光が二人を包み込んだ。 その頃、なのはとユーノは、部屋で魔法の修行をしていた。音尾の家では、高町兄妹にそれぞれ個室があてがわれている。 フェレットのユーノの髭がピクリと反応する。 「なのは、ジュエルシードの反応だ。それもすぐ近く」 「うん。わかった」 なのは首から下げていた赤い宝石を取りだす。 「お願い、レイジングハート」 『Stand by Ready. Set up』 宝石がなのはの声に反応して光を放つ。 なのはの服が白を基調としたバリアジャケットに、宝石が長い杖へと変化する。 肩にユーノを乗せ、なのはの足から光の翼が生える。 「行くよ。ユーノ君」 「うん」 なのはは、窓を開けて夜の空へと飛び立っていった。 ジュエルシードの反応があったのは、閑静な住宅街の一角だった。 しかし、その場所には何もなかった。 「移動しちゃったのかな?」 ジュエルシードは使用者を求めて徘徊したり、近くにいる生物を取りこみ暴走したりする。 「だとすると、早く見つけないといけないね」 「ポプランポプラン、ランラララン!」 突如、なのはたちの頭上から声が響く。 月をバックに一人の女の子がポーズを決めていた。 真夏なのに、なぜか冬用のセーラー服を着て、手には葉っぱが二枚だけついた木の枝が握られている。 「魔法少女ぽぷら参上!」 「俺のことは妖精シュガーとでも呼んでくれ」 魔法少女ぽぷらの肩には、手のひらサイズの小人が乗っていた。白いコック服に金髪の不愛想な男だ。 「あ、あなたたちは?」 先日、なのはは黒衣の魔法少女と遭遇し、ジュエルシードを一つ奪われている。目の前の魔法少女は、果たして敵か味方か。 宙に浮きながら、ぽぷらは盛大に戸惑っていた。 変な宝石を拾ったと思ったら、魔法少女になってしまった。しかも、佐藤はどういうわけか縮んでいる。 挙句に変な格好をした女の子まで現れた。今日会った高町なのはに似ているが、他人の空似だろうとぽぷらは思っていた。 「どうしよう、佐藤さん?」 「戦うしかないだろう」 肩の佐藤は気だるげに言う。 「でも、敵かどうかもわからないし」 「いや。奴は敵だ。ジュエルシードの力で、今の俺には未来が見える」 佐藤はなのはに指を突きつけた。 「あいつは将来、ちょっとやんちゃをしただけの部下を容赦なく叩きのめし、冷酷卑劣な犯罪者からも悪魔、悪魔と罵られる恐ろしい女になるんだ!」 「私、そんなことしないよ!?」 いきなり酷い予言をされ、なのはは涙目になった。 「いや、間違いない。ここであいつを倒す方が世界とあいつの為なんだ!」 「割とノリノリだね、佐藤さん!」 「なのは、あれを見て!」 ユーノが声を張り上げる。 ぽぷらの胸元、赤いリボンに隠れて見えにくいが、ジュエルシードがきらめいている。 「ねえ、ユーノ君。これってどういうこと?」 目の前の二人は、あえて指摘しないが、今日出会ったぽぷらと佐藤だ。 ジュエルシードに取り込まれているにしては、二人は意識をちゃんと保っている。多少ノリが良くなっているようだが。 「信じられないけど、彼らは二人でジュエルシードを制御しているんだ。女の子がジュエルシードから力を引き出し、男の方がデバイスの代わりに制御する」 「そんなことできるの?」 「そうとしか考えられない。でも、いずれ取り込まれてしまうかも。なのは、封印しよう」 「うん。わかった」 ユーノが広域結界を展開する。空間を切り取ることで、現実世界に影響を及ぼさないようにする魔法だ。 『Divine Shooter』 桜色の魔力光が三つ出現し、ぽぷら目指して飛んでいく。 「行くよ、佐藤さん。必殺ぽぷらビーム!」 木の枝にしか見えない杖の先から、魔力ビームが放たれる。 「嘘!」 ビームはディバインシューターを飲み込み消滅させ、さらになのはめがけて突き進んでくる。 『Protection』 レイジングハートがバリアを発生させる。 「駄目だ、なのは!」 ユーノの切迫した声に、なのは咄嗟に横に跳んだ。 ビームはなのはのバリアをやすやすと貫き、地面を鋭く抉る。あのまま防御していたら危なかった。 見た目は普通のビームだが、威力はなのはのディバインバスターに匹敵する。 「ど、どうしよう、佐藤さん。なんかすごい威力なんだけど」 撃った張本人が動揺していた。 「安心しろ。この魔法は非殺傷設定だ。直撃しても気絶だけで済む」 「便利な能力だね。それならもう一度、必殺ぽぷらビーム!」 再びビームが飛来する。回避するなのはを追いかけるように、連続でビームが放たれる。 いつまでも避けられないと悟り、なのははレイジングハートをぽぷらに向ける。 「それならこっちも」 『Cannon Mode』 レイジングハートの先が大砲へと変化し、引き金が出現する。 「ディバインバスター!」 なのはが引き金を引くと、砲口から桜色の光線が放たれる。 ぽぷらビームとディバインバスターが正面から激突する。しかし、ビームがバスターを切り裂いて突き進む。 「きゃあああああああ!」 ぽぷらビームが直撃し、なのはが吹き飛ばされる。バスターである程度相殺したが、バリアジャケットを損傷し、それなりのダメージを受けた。 最大威力に大差はないようだが、ぽぷらの方が魔力チャージにかかる時間が圧倒的に早い。 「そんな、なのはが撃ち負けるなんて……」 ユーノが愕然とぽぷらを見上げ、怪訝な顔になる。 「あれ?」 ユーノはしきりに目をこすった。目がおかしくなったのかもしれない 「あれ?」 同じ言葉がぽぷらの口からも出た。 いつの間にかぽぷらの背が、肩に乗っていた佐藤と同じくらいに縮んでいる。 「ど、どういうこと?」 「説明しよう。魔法少女ぽぷらは魔力ではなく、身長を消費して魔法を使っているのだ」 佐藤が答える。 そもそもこの世界の魔力保持者は希少だ。その例に漏れず、佐藤とぽぷらも魔力を持っていない。ジュエルシードは、ぽぷらの身長を代価に魔力を与えてくれていたのだ。 「じゃあ、魔法を使えば使うほど、私、ちっちゃくなっちゃうの!?」 「そうだ。ちなみに魔力と違って身長は自然回復しない」 「佐藤さん! どうして最初に教えてくれなかったの!」 「今情報が送られてきたんだ」 「もおぉぉおおおおお! これじゃ私、バイトにも学校にも行けないよ!」 「安心しろ」 「えっ? もしかして解決策があるの?」 「俺もこのままだ」 「余計悪い!」 ぽぷらが佐藤に文句を言う。このままでは二人とも一生縮んだままだ。佐藤は普段と変わらないようだが、顔が青ざめている。相当困っているようだ。 「え~と?」 「どうやら戦意を喪失したみたいだね」 口論を始めるぽぷらたちを、なのはとユーノはぽかんと見上げていた。 「ちょっとかわいそうだね。何とかしてあげられないかな? ユーノ君」 「もしかしたら、助けられるかも」 「ホント!?」 ユーノの一言を聞いたぽぷらが顔を輝かせて近づいてくる。 「うん。そのジュエルシードは身長を魔力に変換できるんだよね。それなら、逆に魔力を注ぎ込めば、身長に変換してくれるかも」 「お願い。助けて、フェレットさん。さっきまでのことは謝るから!」 「ねえ、助けてあげようよ」 「わかった。じゃあ、なのは。レイジングハートをジュエルシードにかざして」 なのはが教えられた通りに、杖の先からジュエルシードに魔力を注ぎ込む。するとぽぷらの背が元に戻っていく。 「よかった。成功した」 「やった!」 ぽぷらは両手を上げてはしゃいでいる。そこでふと気がついた。 「じゃあ、魔力を注げば、もっとおっきくなれるってこと?」 「それは無理だ」 佐藤の背もぽぷらと一緒に元に戻っていた。 「人間には容量ってものがある。風船と同じだな。しぼんでいる風船にはたくさん空気が入るが、限界まで膨らんだ風船にそれ以上空気は入れられない。無理して入れれば破裂してしまう」 「つまり、これが私の限界なの?」 ぽぷらは落ち込んで道端にうずくまってしまう。佐藤がなのはたちに顔を向ける。 「悪かったな。どうやらあんたらは敵じゃないようだ。それなら、事情を説明してくれないか? 正直、ジュエルシードがよこす情報は、断片的すぎてよくわからん」 「う、うん。いいけど……」 なのはとユーノからすれば、佐藤は雲を衝くような大男だった。不愛想に見下ろされ、なのはとユーノは少し怯えていた。 町を見下ろす高層ビルの上に、金色の髪をツインテールにした一人の少女が座っていた。黒いマントとレオタードのような衣装を身にまとい、手には長柄の黒い斧を持っている。 かつて、なのはと戦った魔法少女フェイト・テスタロッサだ。手持ちのジュエルシードは二個。 「フェイト。ただいま」 「お帰り。アルフ」 額に宝石がついたオレンジの毛並みの狼が空から下りてくる。フェイトの使い魔アルフだ。 フェイトは眼下に広がる町並みを眺めながら考え込む。 「それにしても、どうしてここにジュエルシードが集まったんだろう?」 「考え過ぎだよ。ただの偶然だって」 アルフはそう言うが、フェイトはどうも腑に落ちない。まるで何かに引き寄せられるようにジェルシードが北海道に集結しているのだ。 「まあいいや。ジュエルシードの反応は二つだね。片方にはあいつらが向かったみたいだよ」 「そう」 「あれだけ痛い目に遭ったくせに、まだ懲りないようだね。とっとと諦めればいいものを」 アルフが目に凶暴な光をたたえる。 「今日はいいよ。もう一つの方に向かおう」 「わかった」 フェイトとアルフは空を飛び、もう一つの現場へと向かった。 薄暗い路地に男がうずくまっていた。ジュエルシードの反応は男から出ている。 「さ、早く封印しちまおう」 フェイトたちが慎重な足取りで近づくと、男がすっくと立ち上がる。 「ふ、ふははははははははは!」 男がいきなり哄笑を上げる。黒ずくめの服に黒いマント。胸元にはジュエルシードが張り付いている。 「我が名は魔王小鳥遊! さあ、我が前にひれ伏せ!」 それは変身した小鳥遊宗太の姿だった。 「相当いっちゃてるね。フェイトは下がってな。こんな奴、あたし一人で充分だ」 アルフが、狼の耳と尻尾を残したまま人間の女性に姿を変える。 アルフが右手をかざすと、光の鎖がタカナシをとらえようとする。相手を拘束するバインドの魔法だ。 「ふん。年増がこの俺に敵うと思うか!」 小鳥遊が魔力を解き放つと、光の鎖が消滅する。 「消えた!?」 「もう一度!」 小鳥遊が手をかざす。 アルフが体を横にずらすと、背後の街灯がみるみる縮み、杖くらいのサイズになってしまう。 「物体を縮小する魔法!?」 「この力があれば、あらゆるものをちっちゃくすることができる。ふはははははは! この世を楽園に作り変えてやる!」 「アルフ。彼の体をよく見て」 目を凝らすと、細い糸が小鳥遊を拘束していた。アルフのバインドは消えたのではなく、縮んでいたのだ。小鳥遊は易々と糸を引きちぎる。 フェイトが四つの雷球を放つ。 「縮め!」 小鳥遊の直前で雷球が爪の先ほどの大きさになる。命中するが、静電気ほどの痛みも与えられていない。 物体だけでなく、あらゆる魔法を縮小、弱体化できるようだ。 「アルフ、下がって。こいつ、かなり強い」 フェイトは小鳥遊と対峙する。すると、小鳥遊がいきなりよろめいた。 「か、」 「か?」 「可愛い!」 小鳥遊が顔を紅潮させながら叫んだ。 「うおおおおおおおお!」 タカナシが雄叫びを上げながらフェイトめがけて走ってくる。 「ひっ!」 正体不明の迫力に、フェイトの腰が引ける。 「フェイトに近づくな!」 アルフが小鳥遊の懐に飛び込み、拳を胸に叩き込む。 「ぐっ!」 「耐えた!?」 アルフの全力の拳に、タカナシは足を止めただけだった。どうやらジュエルシードの影響で耐久力も向上しているようだ。 「アルフ、逃げて!」 小鳥遊が手をかざす。アルフは咄嗟にバリアを張るが、瞬時にバリアが縮んでいく。第二撃が放たれる寸前で、アルフは後ろに跳んで距離を取った。 「あの男、一体なんなんだい!」 たった一個のジュエルシードの暴走で、フェイトとアルフがここまで手こずったのは初めてだった。 「違う。彼、ジュエルシードに取りこまれてなんかいない」 「どういうこと?」 「たぶん彼の願望の強さが、ジュエルシードを上回ったんだ」 ジュエルシードを制御しているわけではなく、取りこまれたわけでもなく、暴走したジュエルシードと共生している。普通ならあり得ない現象だ。 「そんな馬鹿な! どんだけ強い願望なんだい!」 「分が悪い。アルフ、ここは撤退しよう」 人間の意識が残っているなら、放っておいてもそれほど影響はないだろう。 「バルディッシュ」 『Yes, Sir』 フェイトの指示で斧の形をしたデバイス、バルディッシュから強烈な光が放たれる。小鳥遊がマントで目をかばう。その隙に、フェイトとアルフは離脱する。 「ちっちゃいもの、カムバーック!!」 取り残された小鳥遊の嘆きが、夜空に吸い込まれて消えていった。 フェイトたちは根城にしている部屋に戻ると、ようやく一息ついた。 「ええい、忌々しい!」 アルフはドッグフードを取り出し口に含むと、バリバリと乱暴に咀嚼する。あの小鳥遊とか言う男のせいで、今日はジュエルシードを一個も回収できなかった。 こんなことがばれたら、あの女に何を言われるかわかったものではない。 「うん。本当に厄介だね」 攻撃にも防御にも転用可能な縮小魔法。アルフのパンチにも平然と耐える頑強な肉体。 ジュエルシードを封印する方法は二つ。直接接触で封印するか、大威力魔法をぶつけること。大威力魔法は縮小されて効果がない。接近すればこちらが縮められてしまう。倒す方法が思い浮かばなかった。 『フェイト』 「母さん」 通信画面が開き、長い黒髪の女性が顔を出す。整った顔立ちをしているのだが、どこか不吉な影をまとっている。フェイトの母親、プレシア・テスタロッサだった。 フェイトが怯えた顔を、アルフが険悪な顔をする。今日の失態を叱られると思ったのだ。 『これから指示を出します』 二人の予想に反し、プレシアは淡々と言った。 目次へ 次へ
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